五月人形の購入は「母方の祖父母」の役目 なぜ、この慣習が生まれた?
「端午の節句」のときに飾る「五月人形」は、「母方の祖父母」が購入することが慣習になっているそうです。なぜでしょうか。

5月5日は「端午の節句」ですが、この日が近づくと、男の子がいる家庭では「五月人形」を飾ることも多いと思います。男の子が生まれ、初めての端午の節句を迎えるとき、五月人形を購入した家庭もあるでしょう。この五月人形ですが、男の子の両親ではなく、「母方の祖父母」が購入することが慣習になっていると聞いたことがあります。本当でしょうか。日本礼法家元で、令和椿和文化協会会長の椿武愛子(つばき・むつこ)さんに聞きました。
江戸幕府のお触れがきっかけ
Q.五月人形は、どのような目的で飾るのでしょうか。
椿さん「男の子が生まれたとき、健康で元気に育ち、家の跡継ぎとして成長し、きちんと出世をして立派な大人になってほしいとの願いを込め、飾るようになりました。この慣習が誕生したのは江戸時代であり、かぶとやよろいを飾るのは、武家社会の名残です」
Q.五月人形を購入するのは、男の子の両親ではなく、「母方の祖父母」が購入することが慣習になっていると聞きます。本当でしょうか。
椿さん「『母方の祖父母』が購入する慣習になっているのは、本当です。昔は結婚する際、女性が男性側の家に『嫁入り』して同居することが一般的でしたが、それは男性側の家が、嫁いだ女性の面倒を一生見ることと同じ意味でした。
女性側の家(嫁いだ女性の両親)は、一生、娘の面倒を見てもらう代わりとして、孫に男の子が生まれたとき、お祝いを自分たちがすることとなり、これがきっかけで、『母方の祖父母』が五月人形を購入する慣習が誕生したのです。
また、この慣習は自然に誕生したのではなく、『嫁いだ女性の両親(母方の祖父母)が、お祝いを買うように』と、江戸幕府がお触れを出したことがきっかけといわれています」
Q.では、江戸時代は家に女の子が生まれたとき、将来、嫁に出して男の子が生まれることを考え、あらかじめお金をためていたということでしょうか。
椿さん「その通りです。例えば、福井県では『娘が3人生まれれば、家がつぶれる』と言われていました。地域によっても異なりますが、江戸時代には娘がたくさん生まれれば、お金をためないといけないという考え方はあったようです。
母方の祖父母が五月人形を購入する慣習が色濃く残っていた数十年前も、10万~15万円相当の五月人形を贈ったり、その金額のお祝いを現金で渡したりしていました。江戸時代には、さらに負担は大きかったのではないでしょうか」
Q.現在は、「男性が家を継ぐべきだ」といった「家制度」の考え方が、以前とは大きく変わってきています。「父方の祖父母」が五月人形を購入するのは、あまりふさわしくないのでしょうか。
椿さん「現在は、『母方の祖父母』が五月人形を購入する慣習にとらわれる必要はなく、『父方の祖父母』が購入しても問題はありません。ただ、江戸時代から脈々と続いている考えだからでしょうか、男の子が生まれたとき、『母方の祖父母』が五月人形を購入するという空気感は、現在でも残っているように思います」
Q.男の子の両親が、五月人形を購入するケースも最近はありますね。
椿さん「今は、コンパクトなサイズの五月人形も販売されており、それを男の子の両親が購入することが増えています。祖父母から『複数の段数がある立派な五月人形を買ってあげようか』と言われても、住んでいる家に飾る場所がないことから、両親が断っているケースも増えているようです」
Q.五月人形を飾る慣習は、今後も続いていくべきだと思いますか。
椿さん「五月人形は日本の文化であり、代々引き継がれてほしいと私は思います。海外の人が、日本の文化を質問することが多いですが、日本人が自分たちの文化について答えられないようではやはり困ります。深く知っておく必要はありませんが、日本の文化の精神を理解し、引き継ぐことは続けていくべきではないでしょうか。
今は、かぶとだけなど、安価でコンパクトな形の五月人形も増えました。五月人形でなくても、例えば折り紙などでかぶとを作り、それを男の子にかぶせて遊ばせることも、日本の文化に触れるきっかけになるかもしれません」
(オトナンサー編集部)
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