オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

住む家があるだけでは不十分…ひきこもりの55歳長男が今後すべき手続きとは?

両親が亡くなった後に備えて、ひきこもりの子どもが今後すべき手続きとは、どのようなものなのでしょうか。専門家が解説します。

ひきこもりの子どもが今からやるべき手続きとは?
ひきこもりの子どもが今からやるべき手続きとは?

 ひきこもりのお子さんは親と同居しているケースが多く見受けられます。親が存命中の間は、水道や電気、ガスなどの使用料未払いでライフラインが止まってしまう可能性は低いでしょう。しかし、親亡き後、残されたお子さんが何も手続きをしないままでいると、最悪の場合、ライフラインが止まってしまうことも想定できます。「自宅があっても、そこで生活をすることができない」といったことを防ぐためには、お子さんはどのような手続きをすべきなのでしょうか。

水道光熱費などの支払い方法を確認

 親亡き後、残されたひきこもりのお子さんはきちんと生活していけるのか。そのような悩みを持つ親は多くいます。筆者に相談を持ちかけた母親(84)は、次のようなことを心配していました。

「ひきこもりの長男(55)は、私たち両親が亡くなった後も今ある自宅に住み続けることになると思います。しかし、自宅があっても水道や電気などが止められてしまったら、そこで生活することはできませんよね。一体どのようなことに気を付ければよいのでしょうか」

「ご両親亡き後も使用料がきちんと支払われていれば、水道などのライフラインが止められてしまうことはありません。まずは、使用料の支払い方法から確認してみましょうか」

 筆者はそう答えました。

 水道光熱費などの支払い方法は、主に次の3種類です。

・口座振替
・クレジットカード
・請求書

※支払い方法は、契約している水道局および電気・ガスなどの運営元によって異なります。必ず契約先のサイトを確認するようにしてください。

 口座振替は指定した金融機関から使用料が自動的に引き落とされるので、うっかり支払いを忘れてしまうことがありません。クレジットカードも同様に、自動的に支払いがされます。

 一方、請求書は金融機関やコンビニエンスストアでその都度、自分で支払いに行くことになります。最近では請求書に2次元バーコードが記載されており、それをスマホで読み取って支払うこともできるようです。この方法なら自宅にいながら支払うことができますが、その都度スマホを操作するのは少々面倒なことでしょう。また、後で支払いをしようとして、うっかり忘れてしまったということもあるかもしれません。

 母親によると、長男名義の銀行口座はありますが、クレジットカードは持っていないとのこと。また、請求書で毎回支払いをするのは避けたいとのことでした。これらのことから、長男は口座振替で使用料を支払うことになるだろうという見通しが立ちました。

口座振替の変更手続きはいつすべきか

 続いて、筆者は、口座振替の変更手続きについて、母親と確認をしました。変更手続きは、主に次の2種類です。

・書面による手続き
・インターネットによる手続き
※希望する金融機関が口座振替に対応しているかどうかは、必ず契約先のサイトを確認してください。

 書面による変更手続きの場合、「金融機関の窓口に口座振替申込書を提出する」「契約先の会社に口座振替申込書を郵送する」といった方法があります。なお、口座振替申込書には、金融機関の届け出印が必要です。

 そこまで話をしたところ、母親はしばらく考え込み、やがて表情を曇らせました。

「ひょっとしたら長男の届け出印は見当たらないかもしれません…。どうすればよいのでしょうか」

「金融機関で新しい届け出印の手続きをすることになるでしょう。原則、息子さんご本人が金融機関の窓口に行って手続きをします。金融機関によっては、代理人による手続きも可能なところもあるようです」

「そのような方法が取れるのですね。安心しました」

 母親は少しほっとした表情になりました。

 次に、インターネットによる変更手続きを確認しました。手続きはパソコンやスマホ、タブレットを使って行います。この場合、金融機関の届け出印は必要ありません。ただし、一部の金融機関ではインターネットバンキングの手続きをしておくこと(金融機関の手続きがインターネット上でもできるように手続きをしておくこと)が条件となっているケースもあります。事前に口座振替先の金融機関のサイトを確認しておくとよいでしょう。

 口座振替の変更手続きの際に必要になる物は、長男の通帳やキャッシュカード(口座情報の分かる物)、契約者番号の分かる物(検針票など)、書面による手続きの場合は、さらに届け出印です。母親に確認したところ、長男には兄弟姉妹はおらず、頼れる身内もいないとのことでした。

 両親亡き後、長男が必要な物を1人でそろえ、変更手続きをすることができるかどうか。筆者は少し心配になりました。そこで次のような提案をしてみました。

「ご両親亡き後、息子さんが1人で変更手続きをすることが難しいようであれば、お母さまがご存命中の間に変更手続きをする方法も検討してみてください。お母さまが手伝ってくれれば、息子さんも心強いことでしょう」

「現在は、父親が契約者で父親の口座振替で支払っています。今から長男の口座に変更しても大丈夫なのでしょうか」

「使用料がきちんと支払われていれば、特に問題になることはないようです。契約者はお父さま、口座振替先は息子さんでも構いません。ご両親がお亡くなりになった後に口座振替先を変更するのか、それとも存命中に変更するのか。手続きは書面でするのか、インターネットでするのか。その辺のことを息子さんとよく話し合って決めてみてください」

「はい、分かりました。長男に伝えてみて、どのようにするのかは長男自身に決めてもらおうと思います」

母親はそう答えました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

コメント