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迷惑行為を撮影してSNS投稿、“さらし行為”に法的問題はある?

公共の場で迷惑行為をする人にスマホのカメラを向け、撮った写真を無断でSNSに投稿する―。このような「さらし行為」の法的問題について、弁護士に聞きました。

さらし行為の法的責任は?
さらし行為の法的責任は?

 SNS利用がますます活発化する中、電車内など公共の場において「マナーを守らない人」「迷惑行為をしている人」などを見かけたり、実際に迷惑を被ったりした際、相手やその状況をスマホで撮影し、SNSなどに投稿するケースがしばしば見受けられます。中には、相手の顔や目撃場所(路線名、駅名など)を伏せずに投稿しているケースもあり、「どんな事情であっても勝手にさらすのはよくない」「私刑はダメでしょ」「個人が特定できるような投稿は名誉毀損(きそん)では?」「周囲に迷惑かけてるんだから当然」「さらされるようなことをしている方が悪い」など、賛否の声が上がっています。

 他人の迷惑行為を撮影・投稿することには、何らかの法的問題が考えられるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

個人の肖像権を侵害する行為

Q.公共の場で迷惑行為などをする人を無断で撮影する行為に、法的問題はありますか。

牧野さん「個人は、無断で撮影されたり公開されたりしない権利(肖像権)で保護されています。法律で規定されていませんが、判例上認められている権利です。

判例は、『個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する』(最高裁1969年12月24日判決)としています。憲法13条の『幸福追求に対する国民の権利』が、肖像権やプライバシーを保護する法的根拠です。

ただし、有名人の場合、自己の肖像や名前を露出することを業としているため、一般個人に比べると、肖像権の保護が限定される場合があります。その代わりに有名人は、顧客吸引力や経済的価値を排他的に利用する権利(パブリシティー権)を持ちます。こちらも法律で規定されていませんが、判例上認められている権利です」

Q.その写真や動画を、SNS上に「さらす」行為についてはどうでしょうか。

牧野さん「たとえ不適切な行為であっても、それをネット上に公開してさらすことは、個人の肖像権を侵害することになります」

Q.さらされた側は、何かしらの法的手段に訴えることができますか。

牧野さん「さらされた個人は、さらした相手に対して民法709条の不法行為に基づく損害(精神的損害=慰謝料)の賠償、および、判例上、その差し止め(その掲載データの削除)を請求することが可能です。さらに、その人の評価をおとしめた場合、肖像権の侵害に加えて名誉毀損に基づく損害賠償請求も可能となります。ネット上の肖像権やプライバシー権侵害の場合は、おおむね10万~50万円前後ですが、名誉毀損に基づく損害賠償請求の場合には、評価をおとしめた程度にもよりますが、1000万円を超える場合もあります」

Q.ちなみに、路上にごみを捨てるなどの迷惑行為をした人について、監視カメラに写った姿をプリントし、現場近くに張りだして「さらす」行為は、法的責任を問われるでしょうか。

牧野さん「SNS上にさらすのと同様に、公衆(不特定多数)へさらすことになるので、理論的には民事上の損害賠償責任が発生する可能性がありますが、張りだしによる損害は軽微と思われ、どこまで損害が認められるか難しいケースです。また、そもそも加害者(さらした人)を特定することができなければ、民事上の損害賠償責任を追及することは難しいでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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