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住所は狛江、でもマンション名に「成城」 問題ない? そのメリットは?

アパートやマンションの名前に、その物件の住所とは違う地名が使われることがありますが、問題はないのでしょうか。不動産コンサルタントに聞きました。

イチョウ並木が有名な成城地区(東京都世田谷区)
イチョウ並木が有名な成城地区(東京都世田谷区)

 アパートやマンションの名前に地名が使われることがあります。例えば、東京都世田谷区には高級住宅街で有名な「成城」地区(成城1~9丁目)があり、同地区には「成城□□」「△△成城」と名付けられたアパートやマンションが多く建ち並びます。一方、成城地区の周辺地域にも同様の名前のアパートやマンションがいくつもあり、「住所が成城じゃないのに成城と名乗っていいのか」と疑問に思う人もいるでしょう。

 アパートやマンションの名前に、その物件の住所とは違う地名を使っても問題はないのでしょうか。不動産コンサルタントの田井能久さんに聞きました。

最寄り駅などの名称が使用可能

Q.高級住宅街で有名な東京都世田谷区の成城地区には「成城□□」「△△成城」と名付けられたアパートやマンションが多いですが、同地区の周辺地域にも同様の名前のアパートやマンションがいくつもあります。アパートやマンションの名前に、その物件の住所とは異なる地名を使ってもよいのでしょうか。

田井さん「『不動産の表示に関する公正競争規約』の19条では、物件の名前を決めるにあたり、地名や最寄り駅の名称などを使う際の基準が次のように定められています。

(1)当該物件の所在地において、慣例として用いられている地名または歴史上の地名がある場合は、当該地名を用いることができる
(2)当該物件の最寄りの駅、停留場または停留所の名称を用いることができる
(3)当該物件が公園、庭園、旧跡その他の施設から直線距離で300メートル以内に所在している場合は、これらの施設の名称を用いることができる
(4)当該物件の面する街道その他の道路の名称(坂名を含む)を用いることができる

従って、住所が成城でなくても、物件の最寄り駅が小田急電鉄の『成城学園前駅』であれば、アパートやマンションの名前に『成城』という名称を使っても問題ないと思われます」

Q.世田谷区の隣の東京都狛江市にも「成城□□」「△△成城」という名前のアパートがありますが、成城学園前駅から離れた場所にあるため、規約上、成城と名乗るのは問題だと思います。なぜ、こうした物件が放置されているのでしょうか。

田井さん「主な理由としては(1)ルールがきちんと整備される以前から、物件が存在している(2)ルールはあるが、それを守ろうとする意識が低い事業者が付けた(3)ルールがあることさえ知らない事業者が付けた――のいずれかが考えられます。『不動産の表示に関する公正競争規約』はあくまで、不動産公正取引協議会連合会(全国9カ所の不動産公正取引協議会で構成)という業界団体が決めたルールで、各不動産公正取引協議会の会員が守るべき基準です。

同協議会の会員は主に、宅地建物取引業協会などに所属する不動産事業者であり、個人の物件オーナーの中には、会員になっていない人もいます。従って、非会員の個人オーナーが名前を付けた可能性も考えられます」

Q.アパートやマンションの名前に有名な地名がよく使われるのは、なぜなのでしょうか。有名な地名を使うメリットも含めて、教えてください。

田井さん「先述の地名などの使用基準で『慣例として用いられている地名または歴史上の地名がある場合』と定められていることが最大の理由だと思います。つまり、物件の名前に有名な地名を使った方が多くの人にとって親しみが湧き、覚えやすいからではないでしょうか。この覚えやすさは家を借りる人だけのメリットにとどまらず、物件を紹介する不動産会社にとっても大事なポイントだと思います」

Q.「実際の住所とアパートやマンションに付けられた名前が違い、根拠もない」といった物件があった場合、通報や苦情を訴える窓口はあるのでしょうか。このケースが通報や苦情の対象になり得るのかも含めて、教えてください。

田井さん「先述の不動産公正取引協議会(東京都の場合、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会)が不動産広告を監視し、規約に反した広告表示を行った事業者に対し、警告や違約金を課徴する活動を行っています。一般消費者からの苦情や相談も受け付けているので、ここが窓口として適切だと思います。

『実際の住所とアパートやマンションに付けられた名前が違い、根拠もない』といったケースは通報や苦情の対象になると思います。例えば、『最寄り駅が成城学園前駅ではなく、住所も違うのに、アパート名やマンション名に成城が使われている』といったケースが該当するでしょう」

Q.では、警告や違約金の課徴をしても、事業者が広告の表示を改善しない場合、どうなるのでしょうか。

田井さん「『不動産業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約』6条では、不動産公正取引協議会が警告や違約金の課徴をしても、事業者が改善しない場合、『公正取引協議会の構成員である資格を停止し、もしくは除名し、または消費者庁長官に対し、不当景品類および不当表示防止法(1962年法律第134号)の規定に従い適当な措置を講ずるよう求めることができる』と定めています。

不動産公正取引協議会としての最終処分は除名ですが、宅地建物取引業法(32条)でも誇大広告の禁止をしており、違反を放置し続けると、宅地建物取引業法上の指示や業務停止処分を受け、最終的には宅地建物取引業免許が取り消されます」

Q.「実際の住所とアパートやマンションに付けられた名前が違い、根拠もない」という理由で、実際に問題になった事例はありますか。

田井さん「首都圏不動産公正取引協議会に問い合わせましたが、『事例としては存在するが、外部には公表していない』とのことでした。これは個人的な意見ですが、駅距離ならば、『表示』と『実態』の差が分かりやすいので、協議会に対してクレームがくるのも分かりますが、名称基準の問題は多くの人がその基準を知らないため、クレームにはなりにくく、事例はあっても、そう多くはないと思います」

(オトナンサー編集部)

【写真】街路樹が整然と立ち並ぶ東京・成城地区の住宅街

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田井能久(たい・よしひさ)

不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー

大学卒業後、国内最大手の不動産鑑定事務所に勤務し、1995年に不動産鑑定士資格を取得。その後、米国系不動産投資ファンドで資産評価業務を担当し、全国各地でさまざまな物件の現地調査と価格査定を行った。2006年に独立し、タイ・バリュエーション・サービシーズ(http://www.valuation.co.jp/)を設立。海外事業も展開。1000件以上の評価実績を有する。滞在型余暇を楽しむ人に助言する「ロングステイアドバイザー」でもあり、2015年、マレーシアの企業と業務提携。MM2H(マレーシアの長期滞在ビザ)取得アドバイス業務を行い、自身も2018年にMM2Hを取得。

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