葬儀の「謎マナー」をつくるのは誰か 注意すべきSNS情報とマナーの本質
お札の向きにまで「マナー」?
まだ、景気がよかった頃は、お客さんに顔をつなぐために新入社員をたくさんの接待の席に連れて回っていたことがあります。この頃、「得意先や顧客の前で失礼なことをしないように」とマナー研修が盛んに行われました。
研修の場で、マナー講師はさまざまなことを聞かれます。「香典袋に入れるお札の向きは上下どちらだ、裏表はどちらだ」などと聞かれるわけです。本来はどちらでも問題ないようなことも「どっちですか」と聞かれるので、お金をもらっている以上は答えなくてはいけないと思うのでしょう。「お札の人物の顔を伏せるようにしましょう。悲しみで顔が上げられませんという意味です」といった回答をすることもあるようです。
その説明に納得した人が、そうした入れ方をするのは自由です。ただ、現実的な話でいえば、香典袋のお金の向きはどちらでもいいのです。多くの場合、会計係の人が袋から抜き取るのですから、お札の向きがどうだったかなんて遺族には分かりません。仮に、自分たちの想定しているお札の向きではなかったからといって、「この人は失礼ね」と思う人がいるでしょうか。
繰り返しになりますが、マナーとは「一定の集団で共有される、相手を不快にさせない行動様式」であり、敬意をもって運用されるものです。原則と運用に基づき、場の状況や立場の相対的な上下に合わせた柔軟な対応が望ましく、極端に言えば、「絶対に正しいマナー」と呼べるものは存在しないということになります。
その集団での行動様式ですから、本来は付き合いの中で聞いて学び、尊重していくものです。マナー本やマナー講習で身に付くものはあくまでもガイドラインであり、目上の人を大切にし、先例を尊重する姿こそがマナーの本質といえます。人や状況を見て聞いて、学び、徐々に身に付けていくものだということを理解すれば、「マナーを学ぶことは人を学ぶこと」だということが分かっていただけるのではないかと筆者は思うのです。
(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)

コメント