休業要請 過料なしの“正当な理由”に「経営状況厳しい」はなぜ含まれない?
新型コロナ対策の改正特別措置法では、休業や営業時間短縮に応じなくてもよいケースとして、「経営状況が厳しい」という理由は認められていません。当事者にとっては死活問題ですが、なぜ、「正当な理由」ではないのでしょうか。
新型コロナウイルス対策の改正特別措置法では、休業や営業時間短縮の要請・命令に店舗が応じなければ、緊急事態宣言が出されている場合は30万円以下、まん延防止等重点措置の場合は20万円以下の過料が設けられています。一方、「正当な理由」として、これらの過料が当てはまらないケースもありますが、「経営状況が厳しい」という理由は該当しません。当事者にとっては死活問題ですが、なぜ、「経営状況が厳しい」は正当な理由にならないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
「正当な理由」ハードルは高い
Q.新型コロナウイルス対策の改正特別措置法では、「正当な理由」があれば、休業や営業時間短縮の要請・命令に店舗が応じなくてもよいとされていますが、「経営状況が厳しい」は該当しません。なぜでしょうか。
佐藤さん「まず、政府は『正当な理由』を限定的に解釈すべきとしています。その理由として、(1)改正特措法が、国や地方公共団体が事業者を支援するために必要な措置を講ずる義務を明記しており、事業者への影響が緩和されると考えられること(2)単に要請に応じないことのみならず、専門家の意見を聞き、感染拡大防止のために特に必要があるか否か精査した上で命令が行われること(3)措置が実施される期間は一時的であること――を挙げています。
その上で、政府は営業時間変更等の要請に応じない『正当な理由がある場合』の例として、▽近隣に食料品店などがなく、地域の飲食店が休業すると住民生活の維持が困難になる場合▽周辺にコンビニや食料品店がない病院に併設の飲食店で、休業すると医療提供が困難になる場合――などを挙げています。
一方、経営状況等を理由に要請に応じないことは『正当な理由がある場合』に該当しないとしています。『正当な理由』に当たるか否かは、具体的な状況におけるさまざまな事情を考慮して、客観的に判断されるものですが、政府の挙げている例をみる限り、認められるハードルはかなり高いといえるでしょう。
経営状況が『正当な理由』にならないのは、先述の(1)(2)(3)の理由からですが、それに加え、経営状況の厳しさについて、『どこからが厳しいのか』を線引きすることは難しく、これを『正当な理由』として認めると判断に時間がかかり、迅速な対策を打てなくなるからとも考えられます。また、経営状況を広く『正当な理由』として認めれば、多くの事業者が休業や営業時間短縮の要請・命令に従う必要がなくなり、感染のまん延を防ぐ効果が著しく損なわれるといった実質的な理由もあるでしょう」
Q.コロナ禍では迅速に対策を打つことを優先するため、「経営状況の厳しさ」を「正当な理由」に含めないのは分かりました。では、コロナ禍のような緊急を要すること以外で、店舗の営業に制限をかけるとき、制限によって店舗の「経営状況が厳しい」となる場合、法的に支援の対象として認められるのでしょうか。
佐藤さん「認められる場合もあります。通常、営業活動に制限をかける場合、その制限が『違法』であれば、国家賠償法に基づき『賠償金』の支払いを求めることになるでしょう。また、制限が『適法』であったとしても、法律の規定や憲法29条3項に基づき、『損失補償』(適法な公権力の行使により、特定の者に財産上の特別の犠牲が生じる場合、公平の理念に基づいて、その損失を補てんする制度)が認められる可能性があります。
他にも、営業制限による影響を受けた事業者を支援するため、法律で、国や地方公共団体が財政上の措置を講ずる義務を負うなどと定め、『協力金』を受け取れるケースも考えられます。今回の改正特措法は、国や地方公共団体が事業者を支援するために必要な措置を講ずる義務を明記しており(改正特別措置法63条の2第1項)、法に基づき、要請に協力した事業者へ各都道府県が協力金を支払っています。
国は補正予算を組み、多額の『地方創生臨時交付金』を確保し、自治体はその交付金などを財源に協力金を支給しています。もちろん、これだけでは不十分な事業者も多いと思いますが、国や自治体は経営への影響を緩和する措置を講じているといえます」
Q.確かに、経営が厳しくなる店舗を守る目的で協力金が支給されることになっていますが、支払いがかなり遅れているケースもあるようです。それにより、店舗を閉める事態になったとき、行政に責任を問えるのでしょうか。
佐藤さん「協力金の支払い遅れについて、行政に対して法的責任を問うハードルは高いと思います。支給遅れの背景には、申請書類の不備の多さなどが指摘されています。不正受給をさせないためにも、自治体は審査を慎重にせざるを得ない事情もあり、各自治体が審査スタッフの増員に努めていますが、それでも追いついていないというのが現状です。自治体の努力不足で支給が著しく遅れているのであれば別として、今の自治体の対応を『違法』と評価することは困難でしょう」
Q.憲法では「営業の自由」を保障する明文は存在しませんが、職業選択の自由を保障する憲法22条1項がこれを保障している、というのが通説とされています。「経営状況が厳しい」という理由で営業しようとする店舗に罰則を与えるのは「営業の自由」を侵害していないでしょうか。
佐藤さん「罰則をもって時短営業や休業を命じることは『営業の自由』に対する大きな制約であり、憲法に反する侵害に当たるか否かについて、法律家の間でも意見は分かれるでしょう。私は、今回の場合は、憲法に反する侵害には当たらない可能性が高いと思います。
『営業の自由』の侵害に当たるか否かは規制目的や規制態様を踏まえ、規制の必要性、および合理性が認められるか否かという基準で判断されます。今回の規制は新型コロナウイルスがまん延し、医療が逼迫(ひっぱく)する中、感染拡大を防ぎ、国民(住民)の命や健康を守るためなので、規制の必要性は非常に高いといえます。
また、時短営業や休業の命令は『特に必要があると認めるときに限り』行うことができるとされ(改正特別措置法31条の6第3項、45条3項)、専門家の意見を聞き、感染拡大防止のために『特に必要があるか否か』を精査した上で命令が行われています。飛沫(ひまつ)によって感染拡大が引き起こされていることが明らかとなった今、飲食店等への時短営業や休業の命令は科学的根拠に基づく、合理的なものといえるでしょう。
一方、先述したように、改正特措法には国や地方公共団体が事業者を支援するために必要な措置を講ずる義務が明記されており、事業者は一定の協力金を受け取ることにより、経営への影響が緩和される仕組みになっていること▽時短営業や休業をしなければならない期間は一時的であること▽罰則といっても行政罰の『過料』であり、前科が残る刑罰に比べ、人権制約の程度が大きいとはいえないこと――などを踏まえると、憲法の保障する『営業の自由』を侵害しているとまでは評価できないでしょう」
(オトナンサー編集部)
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