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「キャッシュレス決済」不具合で使えず、現金もなし…客は法的責任問われる?

システムや決済端末の不具合で「キャッシュレス決済」ができなくなるときがあります。そこで現金を持っていなかった場合、客は法的責任を問われるのでしょうか。

キャッシュレス決済が使えず…
キャッシュレス決済が使えず…

 国が「キャッシュレス決済」の普及を促す中、クレジットカードや電子マネー、スマホ決済での支払いが可能な店が増え、キャッシュレス決済を多用するようになった人も多いのではないでしょうか。しかし、システムや決済端末に不具合が生じて、キャッシュ決済が一時的に使用できないこともあります。会計時、キャッシュレス決済が使用できなくなったときに現金を一切持っていなかった場合、客は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

あくまで「店と客との契約問題」

Q.キャッシュレス決済が一時的に使用できなくなった場合、店から現金での支払いを求められることが多いようです。現金を持っていなかった場合、客は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。また、客がその場で現金で払えないことを理由に、店側が警察に通報した場合はどうなるのでしょうか。

牧野さん「支払いに関するトラブルはあくまで、店と客との間の契約上の問題です。店で飲食をしたり、何らかのサービスを受けたりしたにもかかわらず、その場で現金で支払わなかった場合、その時点で、客は民事上の契約不履行による損害賠償責任を問われますが、刑事責任を問われることはほとんどありません。

そのため、客がその場で現金で支払わないことを理由に店側が警察に通報した場合でも、警察は刑事事件として扱わず、『民事不介入』の原則に従って、当事者間での話し合いを求めるでしょう。ただし、客が支払いを免れようという意図で『後日支払う』と店を出て、その後、支払わなかった場合、客は詐欺罪に問われる可能性があります」

Q.キャッシュレス決済が使用できないのは店側の責任ともいえます。例えば、客側から、「現金を取りに帰るから待ってくれ」「現金を持っていないので商品の購入をキャンセルしたい」などの申し出があった場合、店側は客の要求に応じなければならないのでしょうか。また、店側が「その場で現金で払え」「商品のキャンセルは認めない」などと現金の支払いを強要した場合はどうでしょうか。

牧野さん「先述のように、料金の支払い方法に関しては客と店の契約上の合意の問題なので、店側には客のそうした要求に応じる義務はありません。そのため、店が客の要求を拒否しても法的責任を問われることはありません。ただし、現金を持っていない客に『今すぐ現金で支払え』『商品のキャンセルは認めない』などと言って、その場で現金での支払いを威嚇して強要した場合、店側が脅迫罪などの刑事責任を問われる可能性はあります。

客が現金を持っていないのであれば、現金を自宅に取りに帰らせるのが現実的ではないでしょうか。その際は、料金の未払いを防ぐために電話番号やメールアドレスなどの連絡先を聞くのがよいでしょう。情報の使用目的が明らかであれば、店が客に連絡先を聞いても個人情報保護法に違反しないと思います」

Q.「現金を取りに帰るから待ってほしい」「キャッシュレス決済の復旧後に支払いに行く」といった客の要求に応じた後、客が一向に支払いに来ないケースがあったとします。店が事前に客の連絡先を確認していなかった場合、警察に被害届を出したら受理されるのでしょうか。

牧野さん「客が支払いの猶予を求め、その後、支払いに応じなかった行為は単なる支払い義務の不履行であり、民事上の責任となります。客が最初から、だます意図で店のサービスを受けたなどの事情がない限り、詐欺罪として刑事責任を問うのは難しいと思います。そのため、店側が警察に被害届を出したとしても受理されない可能性が高いでしょう」

Q.キャッシュレス決済が使えなくなったことを理由に、客が飲食物の持ち帰り商品のキャンセルを求めた場合、当該商品は廃棄されることが考えられます。その場合、店が客にキャンセル分の損害の補填(ほてん)を求めることはできるのでしょうか。

牧野さん「先述のように、代金の支払いができない時点で客は契約上の債務不履行と見なされます。そのため、店が客にキャンセル分の損害の賠償を求めることは、理論上はできます。ただし実際には、損害をどのように負担するか、双方が話し合うのが現実的でしょう」

Q.キャッシュレス決済のシステムや端末に不具合が生じて集客などに影響があった場合、店側は決済サービスの運営会社に補償を求めることができるのでしょうか。それとも認められないのでしょうか。

牧野さん「店側が損害を被っている以上、理論的には損害賠償請求ができますが、決済サービスの利用規約で決済サービス提供会社の損害賠償責任に上限金額を設定したり、『免責』を設けたりしている場合があります。完全な補償を請求するのは難しいのではないでしょうか。キャッシュレス決済は便利なものですが、トラブルも起こり得ます。店側はトラブル時の対応をあらかじめ考えておくべきですし、客の側も買い物の際は最低限の現金は持っておく心構えがあった方がよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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