抜いたら終わり…人間の「歯」はなぜ1回しか生え変わらない? 再生望むネットの声
人間の「歯」は通常、乳歯が成長とともに抜け、永久歯になるという1回しか生え変わりません。「歯は大切にしましょう」といわれるゆえんですが、なぜ、1回だけなのでしょうか。

「虫歯や歯周病が悪化して抜歯を余儀なくされてしまった」「事故などで歯を破損した」――。そんなとき、「新しい歯がもう一度生えてくればいいのに」と思った経験がある人も多いのではないでしょうか。
人間の歯は通常、乳歯が成長とともに抜け、永久歯になるという1回しか生え変わらないため、子どもの頃から「永久歯は大切にしましょう」と教わる機会も多いと思います。ネット上では「どうして、1回しか生え変わらないんだろう」「骨や皮膚は傷ついても再生するのに、歯だけ再生されないのが不思議」「70~80年近く、同じ歯と一緒に過ごすと考えるとすごい」など、歯の生え変わりについて疑問を持つ人もいるようです。
人間の歯はなぜ、生涯で1回しか生え変わらないのでしょうか。おおの歯科医院(鳥取県米子市)の大野光輔院長に聞きました。
骨格の成長で生え変わる
Q.まず、乳歯と永久歯について教えてください。
大野さん「乳歯は最初に生えてくる“子どもの歯”のことです。人間の場合、人生で1回だけ歯が生え変わりますが、このときに生えてくる“大人の歯”を永久歯と呼びます。歯の総数は乳歯と永久歯とで異なり、乳歯は全部で20本、永久歯は32本(親知らず含む)です。
乳歯は永久歯に比べて小さい上、歯の象牙質やエナメル質が薄く、青みがかった乳白色をしているのが特徴です。小さくて薄いため、永久歯に比べて弱く、虫歯の進行が早かったり、歯ぎしりなどの力で欠けやすかったりします」
Q.なぜ、乳歯が抜け、永久歯が生えてくるのですか。
大野さん「歯が生え変わるのは骨格の成長と、それに伴う食事内容の変化に合わせるためです。顎のスペースや、かむ力に対応できるよう成長していきます。生まれたばかりの赤ちゃんは顎が小さく、母乳やミルクが主食です。歯を使う必要がないため、歯が生えていない『無歯顎(むしがく)』という状態です。
生後半年ごろになると下の前歯が生え始め、離乳食が始まります。2歳ごろになると乳歯が生えそろい、離乳食を終え、大人と似た食事内容になります。6歳ごろになると永久歯が生え始め、歯の交換期を経て、12歳ごろには永久歯が生えそろいます。
歯の生え変わりについては、顎のスペースが広がって、乳歯の後ろに追加で生えてくる場合と、もともと生えていた乳歯と交換で生えてくる場合とがあります」
Q.人間の歯が生え変わるのは生涯で一度きりといわれていますが、それはなぜですか。
大野さん「人間の場合、個人差はありますが18歳ごろに骨格の成長がほぼ終わります。先述のように、歯は骨格の成長に合わせて生え変わるので、骨格の変化がない18歳以降は歯が生え変わる必要がないのです。ちなみに歯の生え変わりというと、何度も歯が生えてくるサメ(魚類)のイメージが強いかもしれませんが、哺乳類の場合、大体は1度しか生え変わりません。
これは私の想像ですが、哺乳類の進化の過程で『ミルクから食事への変化』と『骨格の大きさ』に対応することが歯の生え変わりの目的であり、サメのように歯を頻繁に損傷することを想定しない結果、1度の生え変わりで十分となったのではないでしょうか」
Q.骨や皮膚は傷ついても再生するものですが、歯は溶けたり、折れたりすると元に戻りません。なぜでしょうか。
大野さん「歯には組織を再生する細胞がないからです。骨や皮膚の細胞には再生能力があり、日々、細胞レベルで古い組織を自ら壊し、新しく作り変えています。しかし、歯には再生能力のある細胞がそもそも存在しないため、一度壊れると元に戻せないのです」
Q.ネット上には、大人になってから、「新しい歯がもう一度生えてくればいいのに」と考えたことのある人が少なからずいるようです。
大野さん「新しい歯が生えてきてほしいと思う理由は『虫歯になってしまったから』『歯周病で歯がなくなったから』という人が多いのではないでしょうか。事故で歯をなくしてしまう以外は、虫歯も歯周病も自分の口腔(こうくう)ケアで予防できます。歯自体はとても頑丈な構造になっていて、丁寧に扱えば一生涯使えるようにできています。
そのため、まずは自分の口腔内環境に関心を持ちましょう。毎日、しっかりと口腔ケアをしたり、かかりつけの歯科医院を持って定期的にチェックしてもらったりするなど、日常の少しの時間を口腔ケアに割いていただければ、たとえ新しい歯が生えてこなくても、死ぬまで自分の歯が使えるはずです。
最初の永久歯は6歳ごろに生えてきます。日本人の平均寿命は80歳を超えるので、永久歯を74年以上使い続けなければいけません。『永久歯』という名前の通り、人生が終わるまで自分の歯でご飯を食べ、会話をし、きれいな笑顔でいられるよう、ご自身の歯と向き合って丁寧に扱ってみてはいかがでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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