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被告「話した記憶ない」→「録音データ」は裁判の証拠として認められる?

パワハラやセクハラなどの裁判で、証拠として録音データを提出したとき、録音された側の人から「そのような話をしたか記憶にない」「音声が聞き取りにくい」などと言われた場合、録音データは証拠として認められないのでしょうか。

録音データの証拠能力は?
録音データの証拠能力は?

 総務省の秋本芳徳情報流通行政局長(当時)ら複数の幹部が、衛星放送の関連会社に勤務する菅義偉首相の長男と何度も会食をしていたことが2月3日、週刊誌によって報じられ、波紋が広がりました。

 問題をさらに大きくしたのが、報道後の秋本氏の一連の対応です。秋本氏は「衛星放送の話が出たかどうかという記憶はない」と国会で答弁し、2月17日に週刊誌が、秋本氏や長男らが出席した会食で衛星放送が話題に上ったことを裏付ける録音データをネット上で公開したときでさえ、総務省の調査に「(会食時の一部の発言については)私の音声かと思われる」「(会食時に衛星放送の話題が出たことは)記憶にない」と不自然な回答を行い、2月19日になってからようやく、衛星放送の件を認めました。

 今回の件で大きく注目された録音データですが、例えば、パワハラやセクハラなどの裁判で原告側が録音データを提出した際、録音された側の被告(発言者)が秋本氏のように「私の声だが、そのような話をしたか記憶にない」などと言った場合、録音データは証拠として認められなくなるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

証拠の価値は裁判所判断

Q.そもそも、裁判ではどのような資料が証拠として認められるのでしょうか。また、証拠を提出すれば、判決は有利になるのでしょうか。

佐藤さん「民事裁判では、一部の例外を除き、裁判に提出されたあらゆる資料が証拠として認められます。例外とは、著しく反社会的な手段で収集した資料などです。ただ、実際に取り調べるかどうかは裁判所が判断するため、裁判所が『この証拠は調べる必要がない』と判断すれば、当事者が申し出ても調べてもらえないことはあります(民事訴訟法181条)。

しかし、書証(文書のほか、写真や録音テープ、ビデオテープなどの準文書)を証拠として調べてもらえないことはほぼありません。従って、文書や写真、録音テープ、ビデオテープなどを証拠として提出すれば、それがたとえ不鮮明でも聞き取りにくくても、裁判所は証拠として採用し、それを読んだり見たり聞いたりして、意味や内容を念入りに調べてくれます。

ただし、証拠として採用し、取り調べられたとしても、必ず証明したい事実が証明されるわけではありません。例えば、写真や映像が不鮮明で何が写っているのか分からなかったり、録音データが聞き取れなかったりすれば、それらは証拠としての価値が低いと判断されるでしょう。証拠の価値は裁判所が自由に判断できるため(同法247条)、『その証拠からは、証明したい事実を証明できない』と裁判所に判断されれば、当事者にとって不利な判決につながります」

Q.では、パワハラやセクハラなどの裁判で明瞭な録音データを提出したにもかかわらず、録音された側の人(発言者)が「音声が聞き取りにくくて分かりにくい」と言ったり、秋本氏のように「確かに私の声だが、そのような話をしたか記憶にない」などと不自然な回答をしたりした場合はどうでしょうか。判決に影響はあるのでしょうか。

佐藤さん「先述のように、証拠の価値は裁判所が自由に判断するものなので、録音された側の人(発言者)が『音声が聞き取りにくくて分かりにくい』と言ったとしても、証拠として裁判所が音声を聞き、『本当に聞き取りにくいのか』『証拠としてどれだけの価値があるのか』を判断することになります。

『確かに私の声だが、そのような話をしたか記憶にない』と発言した場合も同様で、裁判所が内容を聞いて、『誰がどのような内容を話しているのか』をしっかり確認した上で証拠としての価値を判断することになります。

なお、裁判で発言の有無や内容が当事者間で争われている中で、問題となる発言がはっきりと録音された録音データが証拠として提出された場合、録音データは客観的証拠なので、裁判所は証拠としての価値を高く評価すると思います。もし、裁判所が今回の総務省の件について判断すると仮定した場合、裁判所は証拠に基づき、『会食で衛星放送に関する話があった』と認定する可能性が高いと思われます。

客観的証拠がある場合、当事者が『記憶にない』と主張しているかどうかは、発言の有無や内容に関する裁判所の判断に大きな影響を与えることはないでしょう。ただし、『記憶にない』ならまだしも、客観的証拠と矛盾するようなうそを裁判で積極的につくなどすれば、当事者の主張が裁判所から信頼されなくなり、不利な判決につながる可能性もあります」

Q.無断で録音、録画したデータは裁判で証拠として認められるのでしょうか。

佐藤さん「民事訴訟法には、証拠として利用できる資格(条件)を制限する規定がありません。そのため、先述のように、著しく反社会的な手段で収集したものでない限り、証拠として採用することができます。無断で録音、録画する行為は、状況によってはプライバシーの侵害として違法と判断される可能性もありますが、仮に違法に収集された証拠であっても、それだけで直ちに証拠として採用できないことにはなりません。

実際、過去の裁判では『その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるとき』は証拠として採用できないとした上で、酒席での無断録音データについて、『著しく反社会的な手段方法による人格権侵害があるとまではいない』として、証拠として認めた事例があります(東京高裁1977年7月15日判決)。通常の対話の際、相手の許可を得ずに録音した程度であれば、基本的に証拠として採用されます」

Q.無断で録音や録画したデータを裁判で提出したとき、録音・録画された人から、「無断で録音・録画されたことで精神的苦痛を味わった」と訴訟を起こされた場合、すでに提出した録音・録画データは証拠として認められないのでしょうか。

佐藤さん「無断で録音・録画された人が『無断録音・録画されたことで精神的苦痛を味わった』などとして、別の問題として訴訟を起こしたとしても、通常の対話の無断録音であれば、犯罪的な行為によって録音・録画したなどの事情がない限り、証拠としては採用されます。

無断録音・録画に違法性があったかどうかについては、改めて、別の裁判で争われることになります。もし、その裁判で無断録音・録画行為が違法と判断されれば、無断録音・録画した側は損害賠償責任を負うことになるでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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