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見た目はいいけど…「黒マスク」は白マスクより熱中症リスクが高い?

コロナ禍でマスク姿が日常となった中、黒いマスクを好んで着けている人がいます。しかし、「黒マスクは白マスクより熱中症のリスクが高まる」という説もあります。本当でしょうか。

黒マスクは熱中症になりやすい?
黒マスクは熱中症になりやすい?

 コロナ禍の影響により、いまや、私たちの日常生活に欠かせないものとなった「マスク」。最近では、さまざまな色のマスクも多く販売され、ファッションアイテムの一つとして楽しむ人も増えてきました。

 中でも「汚れが目立ちにくい」「服装になじみやすい」などの理由から、黒いマスクを好んで着けている人は多いようですが、「黒マスクは白マスクよりも熱を吸収しやすく、顔周りの温度が上がって熱中症のリスクが高まる」という可能性を指摘する報道もあります。

 これについて、ネット上では「黒マスクは体感温度が上がりそうなイメージ」「見た目はいいけど、外で着けると暑そう」などの声がありますが、実際はどうなのでしょうか。マスクの色と熱中症リスクの関係について、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

強い日差し下で12度差あるが…

Q.顔の周辺(首から上)が暑さにさらされたとき、人体にどのような影響が出ると考えられますか。

森さん「顔の周辺の暑さが続くと、のぼせているように感じたり、顔が火照っているように感じたりする人が多いようです。ぼーっとする▽顔が赤くなる▽顔や首に大量の汗をかく▽目まいがするなどの症状が一時的に起こることもありますし、体温調節がうまくいかないことによって、熱中症のリスクが高まる危険もあります。特に、子どもと高齢者は暑さの影響を受けやすいと考えられています」

Q.マスク着用による熱中症リスクが指摘されていますが、黒いマスクは白いマスクよりもリスクが高くなり得るのは事実でしょうか。

森さん「確かに、黒色は光を吸収しやすく、吸収した光を熱エネルギーに変えることによって温度を上げることはよく知られています。一方、白色は光を反射するため、温度の上昇が抑えられます。日中、屋外で色彩の違いによる表面温度の差を調べた実験は多く行われていて、シャツを使った炎天下での実験で、『色の違いにより20度以上の差がついた』という報告もあります。このことからも、黒いマスクは熱中症のリスクが高くなり得る要素があるといえます。

しかし、実際の生活に当てはめると、マスクの面積が小さいことによる影響の小ささや、風や太陽光の当たり方など温度上昇の差を縮める環境要因によって、熱中症リスクに差がつくほどの生活シーンは少ないと考えられます」

Q.実際に、白マスクと黒マスクなどの濃い色味のマスクとでは、着けたときに感じる気温や体温に違いはみられるのでしょうか。

森さん「都市環境学を専門とする、国立研究開発法人国立環境研究所の一ノ瀬俊明・上席研究員の実験報告によると、屋外でのマスクの表面温度を測った場合、白色と黒色では、曇りの場合で5度程度、強い日差しの下で12度程度の差があったものの、風(空気の流動)や湿気(呼気、汗)を条件に加えると、その差は著しく縮まりました。動かない状態で直射日光を浴び続けるような場合を除き、表面温度の差はそれほど大きくならないということがこの実験結果から分かります。

また、マスクの面積はシャツやズボンなどの衣服に比べて非常に小さいため、私たちの感覚に与える影響も少ないと考えられます。つまり、黒や深緑色などの濃い色のマスクを着けた際に『白色のマスクより暑い』と感じることは、実際の生活ではほとんどないといえるでしょう」

Q.つまり、熱中症予防の観点からは「マスクはどんな色でもよい」ということでしょうか。

森さん「はい。炎天下など熱中症のリスクが高い環境では、マスクの色の選択は大きな問題ではないと考えられます。むしろ、着用の仕方が重要と考えられ、マスクをしたまま負荷のかかる作業や運動をしないこと、人との距離(ソーシャルディスタンス)をとることでマスクを外すなどの注意が呼び掛けられています」

Q.暑い時期にマスクを使用するときの注意点を教えてください。

森さん「マスクを着用していると、普段は無意識に行っている、体温を下げる機能が働きにくくなります。体温より低い外の空気ではなく、自分の呼吸で出た暖かい空気をまた吸い込むことや、マスクが顔を覆っているため熱がこもりやすくなることなどが原因です。

さらに、喉の渇きを感じにくくなったり、マスクの着脱が面倒だったりすることで、水分補給の機会が減る傾向にもあります。こうした理由により、脱水や熱中症のリスクが高まるので、暑い時期はいつも以上に気を付ける必要があります。

感染リスクが高いとされる『3密(密閉、密集、密接)』以外の場所では、会話をしないことを前提にマスクを外す時間をつくったり、スポーツをするときや屋外では、マスクの着用より人との距離を取ることを心掛けたりして、体調管理に配慮しながらマスクを使うことが大切です」

Q.暑さを軽減するためのマスク選びのポイントとは。

森さん「一般的な生活の中での、『飛沫(ひまつ)を飛ばさない』『口や鼻に手が触れないようにする』ことを目的としたマスクの着用であれば、不織布より、通気性や速乾性の高い布素材のマスクの方が暑さを軽減できると考えられます。軽減の度合いは、生地の厚さによっても変わります。

さらに、『夏用マスク』として開発されたものは接触冷感機能があったり、内側がメッシュになっていたりと、さまざまな工夫をしているものが多くあります。また、口元に空間ができる立体構造タイプは、熱がこもるのをある程度は防ぐと考えられます。

先述の通り、マスクの色による大きな差は生じないとはいえ、白色や黄色、灰色などは表面温度が上がりにくい色として知られています。ファッション性などにこだわりがないのであれば、気温に合わせてこうした色のマスクを選んでみるのもよいでしょう」

資料提供:国立環境研究所

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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