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お金があって介護も不要 超高齢社会を生きる親への「親孝行」、何をすべき?

「親孝行、したい時分に親はなし」という言葉があります。昔は確かにそういったケースが多かったと思いますが、超高齢社会となった今はどうでしょうか。

超高齢社会での親孝行とは?
超高齢社会での親孝行とは?

「親孝行、したい時分に親はなし」。親のありがたみが分かる年頃になり、親孝行をしたいと思うようになったときには、もう親はこの世にいない――。そうした後悔や嘆きを表現した言葉です。

 実際にその昔、70代で死ぬ人が多かったような時代では、そのとき、子どもは40代中盤。働き盛りで仕事に忙しく、子どもは学生なのでまだ手がかかり、親まで気が回らないという状況だったでしょう。しかし、仕事や子育てが一段落して、親孝行をする余裕ができたときには、もう親はこの世にいない…。「親孝行、したい時分に親はなし」は「さりとて、墓に布団は着せられず」と続くようですが、まさに、「何の孝行もできなかった」と実感した人が多かった時代だと思います。

“超高齢社会”が到来しました。さて、「親孝行、したい時分に親はなし」は今も同じでいいのでしょうか。

経済的支援や介護ではなく…

 2019年の「簡易生命表」(厚生労働省)によると、65歳男性の平均余命は19.8年、女性は24.6年。“高齢者”となった親は男性で85歳、女性で90歳近くまで生きることになります。もちろん、これは平均ですから、それ以上の長寿も十分に想定されます。つまり、超高齢社会は「親孝行、したい時分」に「親がいる」時代であるということです。

 超高齢社会は高齢者に対して、「長い高齢期をどう生きるか」という問いを投げ掛けていますが、同時に、子ども世代に対しても、「親にどのような孝行をすべきか」を考えさせているといえるでしょう。

 親孝行といっても、経済的な支援ではありません。多くの場合、親の方が経済的に豊かだからです。

 8月に発表された「高齢社会白書」では、60歳以上の人のうち、「経済的に全く心配なく暮らしている」が約20%、「それほど心配なく暮らしている」が54%で、合わせて74%の高齢者が「経済的に心配なく暮らしている」ことが分かります。また、「収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩して、まかなうことがありますか」という質問に対し、「ほとんどない」「全くない」を合わせるとおよそ52%、「時々ある」が35%弱で、高齢者の多くが預貯金をそんなに取り崩すことなく暮らしています。

 親孝行は介護でもありません。そもそも、高齢者のうち「要介護認定」を受けている人の割合は13%程度に過ぎず、多くは自立して暮らしておられます。また、「介護が必要になった場合には、子に頼みたい」と考える人の割合も、男性で12%、女性で31%ですから(2018年高齢社会白書)、「子どもに迷惑をかけたくない」というのが多くの高齢者の本心なのでしょう。親と離れて住んでいる人が多いでしょうから、介護は物理的に難しいという問題もあります。

 では、「お金もあって、元気な親」に対する孝行とは、どのようなものでしょうか。私は「孤独な環境からの脱出を促すこと」ではないかと考えます。

コミュニティー参加の後押しを

 郊外の一戸建てで、周りに人がいない。都心のマンションに住んでいるが世代の違いもあって、ほとんど交流がない。そんな環境にいる高齢者がどんどん増えています。孤独が健康や命に与える悪影響は、たばこなどのよくない生活習慣よりはるかに大きいという調査結果もありますし、体調の急変や家庭内事故の際に助けも期待できません。何より、孤独な環境では、現役時代に頑張って、ようやく手に入れた20年もの長い高齢期を楽しむことができません。

 それなのに、親世代には、我慢したり、あるいは諦めたりして、孤独に耐えている人がとても多くいます。日本が貧しかった頃の「ぜいたくは敵」「質素倹約」といったパラダイムが残っている影響もあるのでしょう。

 人はさまざまな共同体に属しながら人生を送ります。子どもの頃の家庭、学校、地域、社会に出れば、職場の仲間や会社組織、結婚すれば家族など、いろいろな人とのつながりの中で役割を持ち、助け合いながら生きるのです。ところが、高齢期になると、このような共同体を全て失い、人とのつながりを持たずに暮らす人が急に増えてしまいます。

 そんな孤独な環境にいる親を放置せず、人がいて、つながりを持てる高齢期にふさわしい共同体への参加を促すこと。これが、超高齢社会における親孝行ではないでしょうか。

 筆者の知人が主宰する書道教室には、電車で通ってくる92歳の女性がいます。彼女は「娘は『危ない、大丈夫?』といつもヒヤヒヤしているけど、書道をすすめたのはあなたでしょ、と言い返しているのよ」と笑っておられました。

 現役時代に培った人脈を生かし、中小企業で顧客紹介や営業情報の入手を担当している70代前半の男性もいますが、彼は息子の紹介で就職したそうです。「自由に働けるし、若い人と話す機会もあって、現役時代より楽しい」といいます。

 また、高齢者住宅の専門家によると、郊外の一戸建てやファミリー向けマンションなどで、交流がなく孤独に暮らしている高齢の親に住み替えをすすめる子どもも徐々に増えているようです。孤立状態での事故や病気、認知症の進行、孤独死といった事態を回避するため、安心な住まいの情報を自らいろいろと調べて入手し、親にすすめているのでしょう。

 高齢世代はネットにあまり強くないことも含めて、情報不足になりがちです。行政の広報誌や近所の掲示板に、全てが分かりやすく掲載されているわけでもありません。住まいに不便や不安を感じて環境を変えたいと思っても、選択肢が多かったり、手続きが複雑に見えたりすると、考えるのも面倒になって、「まあ、いいや」と我慢や先送りをしがちです。

 そんな状況にある親世代に対して、どのような新しい共同体があるか、参加できるコミュティーがあるかという情報を収集・提供する。そして、その気はあっても踏ん切りのつかない親たちの背中を押してあげる。これからの時代は、そんな親孝行のスタイルが求められるのではないかと思います。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)など。老いの工学研究所(http://oikohken.or.jp/)。

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