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山下智久さん活動自粛 年齢偽った未成年と飲酒、法的責任は問われない?

俳優の山下智久さんらが女子高校生2人と飲酒したことが発覚し、批判が殺到しました。未成年と知らずに酒を飲ませた場合、罪に問われるのでしょうか。

未成年に飲酒させたら…
未成年に飲酒させたら…

 俳優の山下智久さんらが都内の飲食店で、女子高校生2人と飲酒していたことが週刊誌報道で明らかとなり、波紋を広げています。報道によると、女子高校生の1人は身分を偽っていたとして後日、店側に謝罪したそうで、ジャニーズ事務所が文書で山下さんの芸能活動自粛を発表した際も、未成年であるという認識が山下さんにはなかったとしています。一方、ネット上では「(山下さんを)厳重に処罰してほしい」「未成年だと知らなかったという言い訳は通用しない」などと批判の声が出ています。

 そもそも、未成年に酒を飲ませた人は、相手が年齢を偽っていても法的責任を問われるのでしょうか。子どもの権利・法律問題に詳しい、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

親や監督代行者でなければ…

Q.未成年に酒を飲ませた場合、飲ませた人は法的責任を問われるのでしょうか。

佐藤さん「飲ませた人がどういう立場にあるかによって異なります。『未成年者飲酒禁止法』では、親には未成年者の子どもが飲酒しているのを知ったら制止する義務があり(同法1条2項)、飲酒を知りながら制止しなければ、科料(軽微な犯罪に科する財産刑、金額は1000円以上1万円未満)に処すとされています。

また、親に代わって監督する者(監督代行者)についても、親と同様の義務と罰則が定められています。監督代行者とは、『親権者に準じ、または親権者に代わって一般的、総合的に未成年者を監督すべき立場にある者』です。例えば、大学に通うため地方から出てきた未成年者を下宿させ、同居して面倒を見る親戚や知人、未成年者を住み込みで働かせている店の雇い主などが監督代行者に当たると考えられます。

一方、未成年者の日々の生活を監督する立場にはない、単なる大学の先輩や会社の上司などは監督代行者には当たりません。従って、親や監督代行者が子どもに酒を飲ませた場合、罪に問われる可能性がありますが、それ以外の人の場合は、日常的に面倒を見ているなどの特段の事情がない限り、罪に問われることはないと考えられます。

ただし、未成年者に酒を飲ませたり、飲み会で同席しながら未成年者の飲酒を制止しなかったりする行為は望ましいものではなく、さまざまな社会的責任を追及される可能性があるでしょう」

Q.それでは、知人などが、未成年だと知らずに酒を飲ませた場合、あるいは相手が成人だと身分を偽っていた場合は、飲ませた側は社会的責任を追及されるでしょうか。

佐藤さん「親権者や監督代行者でない単なる知人などが、相手が未成年者だと知らずに飲ませた場合や、相手が成人だと身分を偽っていたために飲ませてしまった場合には、法的責任はもちろん、社会的にも道徳的にも、強く非難するのは難しいのではないでしょうか」

Q.酒を飲んだ未成年は法的責任を問われるのでしょうか。また、成人だと身分を偽って飲食店で酒を飲んだり、小売店で酒を購入したりした場合はどうですか。

佐藤さん「未成年者飲酒禁止法は20歳未満の者の飲酒を禁じていますが(同法1条1項)、違反した未成年者に対する罰則は定めていません。この法律は未成年者の健全な育成を目的としているため、未成年者を罰するのではなく、親など周りの大人に対して罰則を科す仕組みとなっています。従って、未成年者が飲酒したとしても処罰されることはありませんし、成人だと身分を偽って飲食店で酒を飲んだり、小売店で酒を購入したりしても、未成年者自身が何らかの法的責任を追及されることはないでしょう。

ただし、未成年者の飲酒は不良行為にあたるため、補導される可能性はあります。場合によっては、警察などが保護者や学校、職場に連絡する場合もあります」

Q.小売店や飲食店が未成年に酒を提供した場合、法的責任を問われるのでしょうか。利用者が未成年でありながら「20歳以上」だと身分を偽るケースもありますが、その場合も責任を問われるのでしょうか。

佐藤さん「未成年者飲酒禁止法はお酒を取り扱う小売店や飲食店などの店に対し、未成年者であることを知りながらお酒を売ったり、提供したりすることを禁じており(同法1条3項)、これに違反した場合、50万円以下の罰金に処せられます(同法3条1項)。

店側が未成年者であることに全く気付かなかった場合は『未成年者であることを知りながら』に当たらないため処罰されませんが、これらのお店には、未成年者の飲酒を防止するため、年齢確認など必要な措置を講じる義務が課せられています(同法1条4項)。『未成年者が飲酒するかもしれない』程度の認識であっても『知りながら』に当たり、処罰される可能性があるため、店側は身分証の提示を求めるなど年齢確認を徹底する必要があるでしょう。

なお、未成年者に酒を提供して罰金刑を科された場合、酒類販売業の免許が取り消されることもあります」

Q.未成年に酒を飲ませたことで、当該の未成年がけがをしたり、トラブルを起こしたりした場合、飲ませた側(親や監督代行者)や提供した店の責任はより重くなるのでしょうか。

佐藤さん「未成年者飲酒禁止法には、酒を飲んだ未成年者がけがをしたり、トラブルを起こしたりしたことによって、親や監督代行者、店側の責任を加重する規定はありません。ただ、心身が未熟な未成年者の場合、飲酒により泥酔して、転落事故や水難事故を起こしたり、理性が働かなくなって暴力事件を起こしたりするケースが少なくありません。そのような場合、未成年者に酒を飲ませた人や年齢確認を怠った店が民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあるので注意が必要です。

また、未成年者に限らず、相手に一気飲みを強要し急性アルコール中毒になれば傷害罪(刑法204条)、急性アルコール中毒で亡くなれば傷害致死罪(刑法205条)など、刑事責任を問われることもあります」

Q.未成年の飲酒に関する事例、判例はありますか。

佐藤さん「雇用主が未成年の従業員に酒を飲ませたとして、未成年者飲酒禁止法違反の罪で起訴された事件などがあります。この事件では、雇用主が監督代行者に当たらないとして無罪判決となりました(宇都宮家庭裁判所栃木支部2004年9月30日判決)。なお、警察庁などがまとめた資料(『子供・若者を取り巻く有害環境等への対応』に係る関係府省提出資料)によると、未成年者飲酒禁止法違反事件における検挙数は2018年に125件で近年、増減を繰り返しています」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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