双子、三つ子…「多胎児育児」支援が叫ばれる背景 出産準備や父親の関わり方は?
国は2020年度から、双子や三つ子など「多胎児」の親を支援する自治体への補助を開始します。なぜ今、多胎児育児支援の必要性が叫ばれているのでしょうか。
双子や三つ子など「多胎児」を育てる親を支援する動きが、新年度から本格化します。親たちの苦労が注目される中、国は2020年度、多胎児を育てる親を支援する自治体への補助を実施。支援策には、育児経験者との交流会実施や、外出補助などを担うサポーターの派遣といった内容が盛り込まれています。
なぜ今、多胎児育児支援の必要性が叫ばれているのでしょうか。多胎児育児の大変さや父親の望ましい関わり方などについて、乳幼児から青年までの“育ち”を20年間指導し、親向けの子育てサポートに取り組む「子育ち研究家」の長岡真意子さんに聞きました。
想像をはるかに超える多胎児育児
Q.多胎児育児を取り上げる報道が増え、その中でよく「多胎児育児は大変」と伝えられます。多胎児育児はどれほど大変なのでしょうか。
長岡さん「多胎児育児の大変さは、妊娠期から始まります。多胎児の妊娠は、単体児に比べて早産や死産などの医学的リスクが高く、そうしたストレスの多い妊娠出産を無事乗り越えても、母体の回復を待つことなく怒濤(どとう)の育児生活が始まります。
昼夜構わず代わる代わる泣く多胎児を抱え、まともに睡眠もとれないまま、授乳やおむつ交換を一日中繰り返し、食事やトイレに行くことさえままならない日々が続きます。1人の乳児の世話でさえ疲労困憊(こんぱい)する親も多い中、多胎児育児が親にもたらす心身の疲労は、大多数の人々の想像をはるかに超えます。
出掛ける準備に2倍、3倍の時間や労力が必要となり、外出先でも大型ベビーカーの持ち運びや置き場所に困り、同時に泣き叫ぶ子どもたちに神経がすり減るという状況が続きます。そのため、外出の回数が減り、家の中で一日中子どもと向き合いがちとなり、社会からの孤立感を抱えることもあります。
ミルクやおむつなどの必需品やベビーシッターにも、単体児の倍以上の出費が必要となります。多胎児育児には、こうした心身の疲弊、社会的な孤独感、経済的負担の大きさなどいくつもの困難が重なります」
Q.多胎児育児が注目を集めるようになったのは、つい最近です。なぜ、最近まで注目されなかったのでしょうか。
長岡さん「日本の育児観が関係しているのではないでしょうか。日本では昔から、育児全般に関して『できて当たり前』『耐えてこそ立派な母親』という意識が根強いです。そのため、育児の大変さについての訴えが周りに認められにくい風潮があります。
また、文化的にも一見似た人々が集まり、『みんな同じ』という意識も強いため、分娩(ぶんべん)件数の約1%というマイノリティーである多胎児の状況が、より理解されにくい面があります。
それでも、ここ40年ほどで共働き家庭が約2倍に増え、男女同権の意識も高まり、母親のみに家事や育児を任せるのは現実的ではなく適切でもないと、肌で感じる世代も増えてきました。また、虐待事件の報道が相次ぎ、支援の届かない密室での育児の不健全さが明らかになる中、2018年には愛知県で、三つ子を育てていた母親による虐待死事件が起きました。
こうして、多胎児育児支援の必要性がいかに切実であるか、より多くの人々が理解するようになってきたといえるでしょう」
Q.双子など多胎児の育児の場合、父親はどのように育児に関わるべきなのでしょうか。
長岡さん「親の負担が大きい多胎児育児に、母親だけで取り組むことはできません。父親も『手伝う』という気持ちではなく、『共に育てる』という子育ての原点に立ち返り、両親で支え合う必要があります。
また、『女性の役割』『男性の役割』といった枠組みにとらわれず、それぞれの家庭でどうしたら負担をより均等に分担できるか柔軟に考えるべきです。多胎児の世話に必要なタスクを全て書き出し、話し合うのも方法の一つです。子どもが成長するにつれてニーズも刻々と変化するので、定期的に話し合いを繰り返し分担と調整を続けたいものです。
物理的な助け合いと同時に、精神的な支え合いも心掛けましょう。多胎児育児は社会からより孤立しがちなものと理解し、パートナーの話し相手になり、気持ちに寄り添ってあげましょう。一日中乳幼児と過ごす状態が続くと、会話ができること自体がうれしいものです。日々の頑張りへのねぎらいの言葉や、感謝の気持ちを頻繁に伝えることも、忘れないようにしたいところです」
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