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サブスク時代の子どもたち、「物を選ぶ」「迷って決断」経験なくて大丈夫?

「サブスクリプション」が当たり前の時代に育った子どもたちは「限られた小遣いで何を買うか決める」という経験が少なくなります。「選ぶ力」「決断力」はきちんと育つのでしょうか。

「選ぶ力」「決断力」どう育てる?
「選ぶ力」「決断力」どう育てる?

 音楽や動画、電子書籍の配信サービスなど物やサービスを一定期間、定額で利用できる「サブスクリプション」の利用者が増えています。いろいろな音楽が聴けたり、動画が見られたりと確かに便利なサービスですが、一方で「中高生の頃、限られた小遣いでどのCDを買うか迷うという経験を今の子どもたちはしないんだろうな」という声がネット上にあります。

 幼い頃から、「物を選ぶ」「迷った末に決断する」という習慣を身に付けておかないと、将来的に困ることはないのでしょうか。子どもの「選ぶ力」「決断力」はどう育てればよいのでしょうか。乳幼児から青年までの“育ち”を20年間指導し、親向けの子育てサポートに取り組む「子育ち研究家」の長岡真意子さんに聞きました。

日常の中にも機会、親子で話し合おう

Q.音楽や本のサブスクリプションが当たり前の環境で育つと、子どもにどんな影響があると思われますか。まずは、主によい方向で考えられる部分を教えてください。

長岡さん「サブスクリプションが当たり前になった現在は一昔前に比べ、量的にもジャンル的にも圧倒的に多くの音楽や本に触れる機会があります。一昔前はCDショップや書店に出掛けたり、マスメディアが紹介するものを録音したりすることで、ようやく手にすることができたものが、今では自宅にいながら、電子機器のスイッチをオンにするだけで手軽に手に入ります。こうした状況をうまく活用すれば、子どもの感性を磨き、知識を増やす機会とすることができるでしょう」

Q.逆に、サブスクリプションによる悪影響として考えられることは何でしょうか。

長岡さん「清濁混在する、雑多で膨大な量の情報に子どもたちがさらされることにもなりますから、子どもの発達段階にそぐわない情報に触れることがあるかもしれません。また、次から次へと新しい音楽や知識に手軽に触れられることで、一つ一つをじっくりと集中して味わい、掘り下げ探究するといった姿勢が育ちにくくなる可能性も出てくるでしょう。

そして、音楽については、大音量で聴き続けることの聴力への影響にも気を配りたいところです。9歳から11歳までの3116人を対象としたオランダでの研究では、携帯機器で音楽を聴き続けた子どもの40%が高周波音を聞き取ることが困難になったという報告もあります。時間を区切って用いるようにしたいものです」

Q.「聴き放題」「読み放題」の環境にあることで、「どのCDを買うか」「どの本を買うか」「どの漫画を買うか」と迷うことが大幅に減る可能性があります。そのことはどんな影響を与えるでしょうか。

長岡さん「確かに、さまざまな選択肢の中から、時間をかけ迷いながら、ようやく『これだ!』といった音楽や書籍に行き着く体験は減ります。自らの好みに合わせた音楽や書籍が自動的に選別され、自分の元へ次から次に届き、特に自ら積極的に行動する必要もない状態が続くならば、周りの物事に対し、より受動的に向き合う姿勢につながるかもしれません。結果として、子どもの決断力が弱まったり、『ものを選ぶ力』が弱まったりすることもあり得るでしょう」

Q.一般に、子どもの小遣いは限られています。その中で買うものを決める、選ぶことの経験の意義を教えてください。

長岡さん「小遣いを手にすることで、子どもが学ぶのは、手持ちの金額の範囲内で計画的に使うこと、将来に備えて蓄えること、それらの計画に照らし合わせて、目の前の『欲しいもの』を吟味し、購入するかどうかを決断することなどです。例えば、月1000円のお小遣いでは、一昔前ならば、3000円のCDを買うために3カ月ためなければならないと計画を立てる必要がありましたし、果たして、そのCDに3カ月分の価値があるかを吟味し、決断する必要もあったでしょう。

それが、サブスクリプションでは一定の月額を払い、あとは使い放題ですから、自らが手にする一つ一つの音楽や書籍と出費との関係を具体的に体感として学ぶことが難しくなってしまうかもしれません」

Q.子どもの「選ぶ力」「決断力」を育てるためには、どのようなことを心掛ければよいのでしょうか。

長岡さん「何かを選んだり決めたりするには、次のような過程を通る必要があります。

(1)選択肢について良質な情報を集める
(2)それぞれの選択肢の特徴を多角的に分析する
(3)自らの価値観に照らし合わせ、選択肢について優先順位を決める

次から次へと自動的にハイスピードで音楽や書籍に触れられるサブスクリプションでは、子どもがこうした決断に伴う一連の体験にじっくり向き合うのは難しいかもしれません。それでも、普段の生活で、子どもが選ぶ力や決断力を育める機会は多くあります。まずは(1)の選択肢について良質な情報を集めるために、次のような基礎知識について、親子で話し合っておきましょう。

・その情報の執筆者や提供者はどんな専門知識や体験を持っているか。
・なぜ、その情報は書かれたか。何かを購入してもらおうとしているか。
・その情報は『事実』か『意見』か。例えば、書籍について『この本は350ページ』というのは事実だが、『この本は面白いです』というのは意見

これらの指針を用い、より良質な情報を集めるようにしましょう。(2)の選択肢の特徴を多角的に分析したり、(3)の価値観や優先順位に照らし合わせて選び決断したりする力やスキルは、普段の遊びや生活の中で育むこともできます。

例えば、ごっこ遊びでは、さまざまな立場からの見方や考え方を想像し体験することで、一つの物事について多角的に捉えることができると学びます。本や映画、漫画の登場人物、身近な周りの人々について、『あの人はどう考えているのかな?』と異なる考え方について話し合ってみるのもいいでしょう。

『クラシックが好き/ポップスが好き』といった異なる立場に分かれ、『なぜ好きなのか』を主張し合うディベート遊びも多角的な思考力が育まれます。ボードゲームも選択や決断の連続ですし、体を使ったスポーツもその場の状況を素早く読み取り、『今、このボールをどこに投げるか、どの方角や角度に蹴るか』といった判断を瞬時に下す必要があり、決断力が鍛えられるでしょう。

最後に、現代のハイスピード、かつ量的にもあふれるほどの情報の中で、もし、子どもさんが『自分はなかなか物事を決めることができず、優柔不断かもしれない』と落ち込むようなことがあったら、これまでに述べたような取り組みをするとともに、こう声を掛けてあげてください。

『あなたはたくさんの情報を集めて、一つ一つについて一生懸命考えているからこそ、そう簡単には決められないんだね。それは素晴らしいことだよ』。そうした子どもさんの『いい面』を認めることで、その子はより自信を持ち、自分らしく選び、決断するよう踏み出していくでしょう」

(オトナンサー編集部)

長岡真意子(ながおか・まいこ)

子育ち研究家・ライター

北米にて、幼児教室主宰、小中高生クラス講師、大学講師として活動し、幅広い年齢と文化背景を持つ乳幼児から青年までの育ちを20年間指導する。日本では、親向け講座主宰。国内外1000以上の文献に基づく子育て記事執筆多数。個性あふれる2男3女の母。著書に「敏感っ子を育てるママの不安がなくなる本」。名古屋大学大学院人間情報学研究科修士課程修了(文化人類学専攻)。All About「子育て」ガイド(https://allabout.co.jp/gm/gp/1648/)を務めている。「ユア子育ちスタジオ」(http://kosodatekyua.com/)。

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