犬の散歩? 人権無視? 賛否両論の「幼児用ハーネス」、子どものために必要?
幼児の上半身と保護者の手をひもでつなぐ「幼児用ハーネス」は、子どもを拘束しているように見えることから、否定的な声もあります。本当に必要なのでしょうか。
幼児が不意に道路に飛び出して危険な目に遭ったり、迷子になったりしないように体に取り付けるものとして「幼児用ハーネス(迷子ひも)」があります。
幼児の上半身と保護者の手をひもでつなぐスタイルが一般的で、リュックタイプやベストタイプなど、さまざまなタイプが販売されています。しかし、それを使う親子の姿が、ひもで子どもを拘束しているように見え、「犬の散歩みたい」「子どもの人権を無視している」などと否定的な声もあります。
幼児用ハーネスは、子どものために必要なものでしょうか、不要なものでしょうか。乳幼児から青年までの“育ち”を20年間指導し、親向けの子育てサポートに取り組む「子育ち研究家」の長岡真意子さんに聞きました。
議論が公の場で活発ではない
Q.幼児用ハーネスは、欧米では比較的普及しているようです。いつごろ誕生し、なぜ賛否両論があるのでしょうか。
長岡さん「幼児用ハーネスと同じ役割を持つものとして、『リーディング・ストリングス』があります。これは子ども服の肩口に縫い付けた細長い布で、大人がその布の端を持ち、幼児が安全に歩くことを助けるためのものです。17世紀ごろからヨーロッパで用いられ、19世紀にはあまり使用されなくなりました。
19世紀ごろから、リーディング・ストリングスは幼児用ハーネスに取って代わられるようになり、20世紀に入って『子どもの人権』の意識が高まるにつれ、幼児用ハーネスの使用について賛否両論がぶつかるようになります。ハーネスは元々、動物の調教用道具の名前で、『人間の子どもに用いることが適切か?』と議論になったからです」
Q.現在も「子どもの人権」が争点なのでしょうか。
長岡さん「昨今では、子どもの人権以上に現実的な面が考慮されるようになっています。例えば、核家族化や都市化が進み、一昔前の大家族や密なコミュニティーのように、子どもへの目も手も届かなくなったこと、車や人の密集する地域で暮らす人々が増えていること、衝動性や多動、自閉症などさまざまな特性を持つ子どもがいることが顕在化してきたことです。
現実的な面が考慮されるようになったため、現在の欧米では『個々の家庭の選択を尊重』という考えが主流となり、さまざまな材質や形をした幼児用ハーネスが用いられています」
Q.日本では、欧米に比べて幼児用ハーネスへの抵抗感が強く、あまり普及していないように思えます。なぜ、抵抗感が強いのでしょうか。
長岡さん「欧米でも、幼児用ハーネスについて賛否両論があります。欧米では、賛成派と反対派の言い分が声高に叫ばれることで、幼児用ハーネスに対する理解が少しずつ広まってきました。しかし、日本では、こうした議論が公の場でそれほど活発にされていないことも幼児用ハーネスが普及していない原因ではないでしょうか。
また、歴史的に多様な文化的背景を持つ人々が隣り合わせに暮らし、お互いに異なる権利を主張し合うことに慣れた欧米に対し、一見、似たような文化の人が集まっている日本では、『個々の家庭によって状況やニーズが異なる』といった事実がより理解されにくいこともあると思います。
さらに、日本の子育てでは『親が楽をする』ことについて、より強い抵抗感があるからかもしれません。手のかかる幼い子を追いかける姿が『献身的でほほ笑ましい理想の親』とされることで、幼児用ハーネスを持つ姿をネガティブに捉える人々もいるのかもしれません」
Q.幼児用ハーネスのメリットとデメリットは。
長岡さん「メリットは、子どもの事故、迷子、連れ去りなどへの親の不安が緩和されることです。特に、多胎児や兄弟姉妹の年齢が近い場合▽子どもが衝動性をコントロールできなかったり、こだわりがあったりする特性の場合▽親の体調があまりよくない場合なども、親はより安心して子どもと出掛けられます。また、ベビーカーにシートベルトを締めて座ることに比べ、子どもも、より自由に動き回ることができます。
デメリットは、ハーネスに頼ることで『これをしたら危ない』という判断力を子ども自身が培う機会が減ってしまうことです。また、年齢が上になるにつれ、『恥ずかしい』という気持ちを持つこともあるかもしれません。幼児用ハーネスを用いることに理解のない周りの人から批判的な目で見られることで、嫌な気持ちになることもあるでしょう」
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