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都など開催の合同企業説明会で委託業者が「サクラ」使用、法的責任問われる?

合同企業説明会に参加した大学生が「サクラ」だったら、主催者は法的責任を問われるのでしょうか。

東京都江東区の東京ビッグサイトで3月に行われた合同企業説明会(2019年3月、時事通信フォト)
東京都江東区の東京ビッグサイトで3月に行われた合同企業説明会(2019年3月、時事通信フォト)

 東京都などが開催した合同企業説明会に、報酬をもらった大学生が就職を希望する学生のふりをして参加していたことが判明、都産業労働局などの10月18日付発表によると、今年7月と8月に開かれた説明会の事業委託を受けた業者側が、金銭提供を約束して「サクラ」の学生を集めていたとのことです。公費を使った事業としての契約に違反するということで業者への委託費用は不支給となりましたが、仮に公費を使っていなくとも、サクラを集めて説明会を開くことは問題があるように思えます。

 芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

詐欺罪に問われる可能性は?

Q.合同企業説明会は一般に、主催者が出展企業から出展料を受け取り、就職希望の学生らを集めて開催しますが、就職希望学生が主催者側の「サクラ」だった場合、法的問題はありますか。詐欺罪などに問うことはできるのでしょうか。

牧野さん「刑法246条『詐欺罪』(10年以下の懲役)に該当するためには、人を欺いて(欺いた人から)財物を交付させることが必要です。明確に人をだます意思が存在したことを証明する必要があります。参加者全員が主催者側の雇ったサクラであれば、明確に出展企業をだます意思が存在したといえ、詐欺罪に問われる可能性があります」

Q.参加者全員ではなく、参加者の半数以上がサクラだった場合や、少人数ながらサクラがいた場合はどうでしょうか。

牧野さん「詐欺罪成立の可能性は変わらないでしょう。ただし、起訴するかどうかの判断や、有罪となった場合の量刑で差が出てくるでしょう」

Q.出展した企業は採用担当の社員を説明会会場に派遣したり、資料を用意したりします。そうした関連費用を含め、主催者側に賠償請求することは可能でしょうか。

牧野さん「全員がサクラであれば、出展企業に生じた損害を不法行為(民法709条)により請求することは可能でしょう。一部であれば、サクラであることによって生じた損害に対応する部分の損害賠償請求になるでしょう」

Q.就職する気がないのに報酬を受け取ってサクラになった学生たちも、結果的に会社をだましたことになります。法的責任は問われるでしょうか。

牧野さん「サクラという事情を認識した上で、就職する気がないのに参加したのであれば、詐欺罪の共犯に問われる可能性があります」

Q.逆に出展企業の中に、採用予定はないが主催者に依頼されて出展料無料でブースを出した企業があった場合、学生や求職者が時間を無駄にする可能性もあります。法的責任を問えるでしょうか。

牧野さん「刑法246条の詐欺罪の第2項では、『前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする』とありますが、学生や求職者が時間を無駄にしたとはいえるものの、だまされた学生や求職者から『財物や財産上不法の利益』を得た訳ではないので、詐欺罪の成立は難しいでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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