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人気商品で3年、10年待ち…長期にわたる予約注文はいつまで有効? 死亡していたら?

世の中には、発注してから「3年待ち」「10年待ち」といった商品があります。長期の注文は、何年先まで有効なのでしょうか。

こだわりのパンが数年待ちのことも…
こだわりのパンが数年待ちのことも…

 超人気の手作りパンや、ブランド牛を使ったコロッケ、匠(たくみ)の技が光るアート作品など、世の中には、発注してから「3年待ち」「5年待ち」「10年待ち」といった商品があります。長年待って手にした時の喜びはひとしおかもしれませんが、5年や10年もたつと、発注者の経済事情が変わる可能性があるほか、不幸にして亡くなっている可能性もあります。こうした場合、注文品の扱いはどうなるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

債権消滅時効は商行為5年、民事債権10年

Q.そもそも、売買の契約として、「5年後の引き渡し」「10年後の引き渡し」という長期の予約は有効なのでしょうか。「50年後お届け」や「100年後納品」は。

牧野さん「『50年後お届け』『100年後に納品』という契約でも、契約が成立していれば原則として有効ですが、そもそも非現実的なので、民法90条の公序良俗違反として無効となる可能性があります。他方、『5年後の引き渡し』『10年後の引き渡し』という現実的な契約の場合、債権(商品の引き渡しを請求する権利)の消滅時効の制度が民法で規定されています。商行為(営業行為など商法の適用を受ける取引)によって生じた債権は5年、民事債権(個人間の貸金債権や商品の引き渡し請求権など)は10年です。

従って、売り主がきちんと債務を履行してくれれば問題はありませんが、基本的には、債権が時効で消滅する前に覚書などの書面で債権を確認して『時効の中断』を行うことにより、『時効期間のリセット』をしておく必要があるでしょう。つまり、5年が消滅時効であれば、4年や4年半たった時点で新たに書面で確認しておく必要が法的にはあります。なお、ここまで述べた時効の期間は現行の民法によるものです。

改正民法の施行日(2020年4月1日)以降は、新たに契約する取引について改正民法が適用されます(商事債権の消滅時効もこれにそろえる)ので、商行為であるか一般の民事債権であるかを問わず、契約関係から生じる一般債権の場合には、債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年が経過した時か、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年が経過したときかの、どちらか早い時点で債権は時効によって消滅するとされています(民法166条1項)。

つまり、契約した時から5年経過すると、債権が原則として時効により消滅することになります」

Q.「10年待ち」のパンが代金引換で届いたと仮定します。注文者が不幸にして亡くなっていた場合、家族は受け取りや代金支払いの義務があるのでしょうか。

牧野さん「死亡した注文者が『時効期間のリセット』をして債権が時効消滅していない場合、契約上の債権者の地位も相続されますので、その契約上の債権者の地位を相続した人(質問の例では家族)がそれを行使する(商品の引き渡しを受ける)ことになり、支払い義務が発生します。家族が相続放棄をしていれば、商品受け取りや支払いの義務はありません」

Q.「10年待ち」のパンが代金引換で届いたとき、注文した人が「当時ほど家計に余裕がないから支払えない」と受け取り拒否をすることはできるのでしょうか。

牧野さん「買い主の債務=売り主の債権(代金請求権)が時効により消滅していれば、商品受け取りや支払いを拒否することができますが、消滅していなければ、受け取りと支払いの義務があります」

Q. 法的には受け取り拒否できないということですが、「10年待ち」するような人気商品で、日持ちする食品や食品以外の商品の場合、予約の順番待ちをしている人に売り主側が回すということもできそうです。そういった話し合いはできないのでしょうか。

牧野さん「可能だと思います。そのように長く待たされる商品の場合、正式契約を一方的に成立することができるオプション権を設定してもらい、あくまで『予約契約』としておいて、そのオプション権を行使すれば正式契約、行使しなければ契約不成立とするのも一案でしょう」

Q.「10年待ち」のパンが届く前に、事情が変わったこと(注文主が亡くなった、支払えなくなった…)を店に連絡した場合、キャンセルは可能でしょうか。

牧野さん「買い主の債務=売り主の債権(代金請求権)が時効により消滅していなければ、契約は有効に存続しているので、一方的なキャンセルはできません。契約違反の債務不履行になり、損害賠償義務が発生します。しかし、事情を話して合意解約(売り主の合意が必要)できる場合があるでしょう」

Q.10年たつと、消費税率が変わっているかもしれません。税率は発注時のものになるのでしょうか、それとも納品時の税率になるのでしょうか。

牧野さん「消費税は、基本的には消費のために購入された時点で課税されますので、経過措置の契約時の例外を除いて、納品時の税率になるでしょう」

Q.長期の予約によるトラブルを防ぐための注意点を教えてください。

牧野さん「商品の引き渡しが契約日から5年を超える契約をしないようにすべきだと思います。もし、どうしても『6年待ち』『7年待ち』の商品が欲しいのであれば、正式契約を一方的に成立することができるオプション権を設定してもらい、『予約契約』としておいて、そのオプション権を行使すれば正式契約、行使しなければ契約不成立とするのも一案でしょう。また、時効を中断するために、予約から4年や4年半が経過した時点で新たに書面で契約を確認するのが望ましいでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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