災害で「避難勧告」「避難指示」が出ているのに出社強制する企業、法的問題は?
大雨や洪水など自然災害の恐れが増し、行政から「避難勧告」や「避難指示」が出たのに出社を強制する企業があります。法的問題はないのでしょうか。

梅雨期を中心に大雨や洪水など自然災害の恐れが増し、行政から「避難勧告」や「避難指示」が出ることがあります。避難勧告や避難指示が出たら、自分や家族の身を守るため避難所に行ったり、それが無理なら家の中で安全な場所に移動したりすべきですが、「会社が避難勧告地域になりそうだから、早めに出社するように」と社員に指示したり、「交通機関が止まったら、タクシーで出社するように」と指示したりする企業もあるようです。
こうした指示に法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
労働契約法5条の「安全配慮義務」違反
Q.「避難勧告」「避難指示」の位置づけと法的拘束力について、改めて教えてください。
牧野さん「市区町村が指定する避難場所への移動を勧告したり、指示したりする目的で出されます。『避難勧告』は、災害が発生する可能性がより高まったことを意味し、『避難指示』は、避難に関するものでは最も緊急性や危険性が高いものです。ただし、『避難勧告』『避難指示』のいずれにも法的な強制力はありませんし、指示に従わなかった場合の罰則もありません」
Q.「会社が避難勧告地域になりそうだから早めに出社するように」という指示に法的問題はないでしょうか。
牧野さん「会社は雇用している労働者に出社を命じる権利がありますが、洪水や台風、地震などの災害が起こった際、出社、出勤させると労働者の生命、身体に危険が予想されるにもかかわらず、出社命令や出勤命令をした場合、会社に『安全配慮義務』(労働契約法5条)違反の責任を追及することができます」
Q.「災害で交通機関が止まったらタクシーで出社するように」という指示が出た場合、社員は従う義務があるのでしょうか。
牧野さん「先述の通り、出社、出勤させると労働者の生命、身体に危険が予想される場合、安全配慮義務違反になりますので、そうした違法な指示に従う必要はないでしょう」
Q.避難勧告や避難指示が出ている地域で、出社を強制された社員が被災してけがをしたり、亡くなったりした場合、会社の法的責任は。
牧野さん「安全配慮義務に違反していますので、会社側は社員や遺族に対して損害賠償責任を負うことになるでしょう」
Q.先述の指示を拒否した社員に対し、会社が懲戒処分など不利益な扱いをした場合、法的問題は。
牧野さん「会社が、その理由により懲戒処分を行うことは、労働契約法15条の『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』に相当して処分が無効となる可能性があるでしょう」
Q.会社の指示を守ろうとしたものの、通行止めなどで出社できなかった場合の不利益な扱いについては、どうでしょうか。
牧野さん「労働者に落ち度がなく、不可抗力で出社できなかったということなので、不利益な扱いを行うことは労働契約法違反になるでしょう」
Q.災害時の出社強制や拒否が事件や裁判になった事例があれば、教えてください。
牧野さん「自然災害ではありませんが、危険な状況での業務命令に関する裁判の事例があります。『電電公社千代田丸事件』と呼ばれますが、日本と韓国の間の海底ケーブル修理のため、千代田丸という船舶への乗船を命令された労働者が、日韓の緊張状態を恐れ、乗船拒否をして解雇された、という問題がありました。裁判所は『担当する業務において、本来予想された危険を越える危険がある場合には、出社命令・出勤命令などの業務命令が違法となり、拒否しても不利益な処分を下されない』と判断し、解雇を無効としました」
(オトナンサー編集部)
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