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突然、出版中止を告げられ…一方的な「契約破棄」に法的問題は? 賠償請求できる?

「出版社から文庫本の出版を突如取りやめにされた」という作家の告発が話題となりました。一方的な契約破棄に法的問題は?

一方的な契約破棄に法的問題は?
一方的な契約破棄に法的問題は?

 ある作家が先日、「出版社から文庫本の出版を突如取りやめにされた」とツイッターで告発し、話題となりました。報道などによると、当該出版社が出している別の作家の著書を批判したことを理由に、担当者から出版中止を告げられたといいます。取引先の都合で契約を一方的に破棄された場合、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

契約違反、不法行為として賠償請求可能

Q.作家は、本が完成に近づいている段階で出版社側から突然、出版中止を告げられたと主張しています。これが事実の場合、出版社側が法的責任を問われる可能性はありますか。作家側は、損害賠償を請求できるのでしょうか。

牧野さん「刑事責任は問われません。契約書の記載内容にもよりますが、作家側は民事責任として、契約違反もしくは不法行為に基づく損害賠償請求が可能です」

Q.例えば、契約書に「諸事情により出版を中止する可能性がある」などと記載されていた場合、出版中止は正当化されるのでしょうか。

牧野さん「『諸事情』などの漠然とした表現ではなく、より具体的に『出版社の表現の自由その他の権利を守るために、出版社の裁量によって出版を中止する場合がある』などと記載されていれば、出版中止が正当とされる可能性が高いと考えられます」

Q.出版について、作家と出版社との間で契約書を交わしていなかった場合はどうでしょうか。

牧野さん「契約は口頭でも、メールなどで合意内容を証明できれば成立します。契約違反に基づく損害賠償請求が可能です」

Q.作家側の主張が正しい場合、出版社の作品を批判したことは、出版中止の正当な理由になり得るのでしょうか。

牧野さん「出版契約書に出版社側の契約解除(出版中止)事由として、『自社の作品を批判すること』などの記載があれば、出版を中止する正当な理由になり得ます。出版契約書にそのような規定がない場合、出版を中止する正当な理由とすることは難しいでしょう」

Q.出版に限らず、法人同士の取引で一方的に契約を打ち切られた場合、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

牧野さん「契約で約束している以上、契約違反になり、損害賠償を請求できるでしょう」

Q.当該出版社の社長が出版中止の経緯をツイッターで公表した際、作家の著書の実売部数を明らかにしています。こうした情報を公表したことは、プライバシーの侵害に当たらないのでしょうか。

牧野さん「出版部数は、個人情報やプライバシーには当たりません。しかし、公表したことにより、作家の今後の出版ビジネスへ影響するなど、作家が経済的な損害を被れば不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。ただ、作家への経済的な損害を客観的に証明することは難しいでしょう」

Q.契約を一方的に打ち切られたことによる事例・判例はありますか。

牧野さん「コンビニの加盟店が値引き販売をしたことを理由に、契約の規定に基づいて契約を解除されたケースがあります。当該のオーナーは、突然コンビニ本部から契約解除の通告を受けたため、本部に対し3000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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