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酔っ払った人が駅ホームから転落…救助のため線路に入ったら法的責任は?

酔って駅のホームから転落した乗客を見たら、あなたはどうしますか。勝手に線路内に入ることは禁止されていますが、救助者は責任を問われるのでしょうか。

救助のため線路に入ったら、法的責任は?
救助のため線路に入ったら、法的責任は?

 京都市のJR山科駅で先日、酒に酔った乗客が誤ってホームから転落、周囲の乗客が線路内に入って救助するという出来事があり、「立派だと思う」「ひかれても仕方ない行為」など、ネット上で論議を呼びました。酒に酔った乗客がホームから転落することは、全国どこの駅でも起きる可能性があり、とっさに助けようとする人が現れるのも自然なことです。しかし、救助のために線路内に入れば、ルールや法律に背くことになります。

 救助をした人が、法的責任を問われることはあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

刑事上は免責・軽減の可能性、民事上は?

Q.酒に酔っての転落は、本人が深酒しなければ回避できます。酒に酔ってホームから転落し、事故が発生するなど鉄道のダイヤを大きく乱す原因になれば、重い法的責任が生じるのでしょうか。

牧野さん「故意または過失によって、他人の権利や利益を侵害した場合、これによって生じた損害を賠償する責任が発生します(民法709条不法行為)。自殺で鉄道のダイヤを大きく乱す損害を与えた場合は『故意』にあたり、酒に酔ってホームへ転落した場合は『過失』に該当する可能性が高いでしょう。法的には、過失に比べて故意による場合の方が、損害賠償責任が重いといえます。

具体的な損害賠償責任ですが、振替輸送の費用、乗客へ支払う遅延損害金、車両破損の場合に、修理費、負傷者の救助費、遺体の収容費などが遺族や加害者に請求されます。例えば、車が新幹線に突っ込んで1億4000万円の請求をされた例があります」

Q.「ホームから線路内に立ち入らないでください」と鉄道会社は頻繁に呼びかけています。しかし、人がホームから転落すれば、とっさにホームから降りて助けようとする人もいます。こうした人は、法的責任が問われるのでしょうか。

牧野さん「まず刑事上の責任についてですが、免責・軽減される可能性があります。刑法37条(緊急避難)1項で、他人の生命や身体などの危険を避けるため、やむを得ずにした行為(今回の場合は線路内に入る行為)は、その行為によって生じた害が、避けようとした害(今回の場合は転落した人の危険性)の程度を超えなかった場合、『罰しない』とされているからです。

電車が来るまで十分な時間がないのに線路内に入った場合など、『やむを得ず』の程度を超えたときは罰せられる可能性がありますが、『情状により、その刑を減軽し、または免除することができる』ということも刑法37条1項には書かれています」

Q.民事上の責任はどうでしょうか。

牧野さん「民事上の責任についても、免責される可能性があります。民法720条(正当防衛及び緊急避難)で、『他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利、または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない』などとあるためです」

Q.救助のため線路内に立ち入り、二次被害でけがなどをした場合、救助に向かった人(家族)が、酒に酔って最初に転落した乗客に対して、損害賠償を請求できますか。

牧野さん「救助はあくまで自発的な行為ですので、故意・過失と損害の因果関係はありません。損害賠償の請求は難しいでしょう。ただ、酒に酔って転落した乗客が救助者のおかげで命が助かったのであれば、法的な義務を伴わない謝礼という形ででお返しすることになるでしょう」

Q.立ち入り禁止の池に子どもが誤って入り、溺れてしまった場合に救助するなど、人命を救うためにルールや法律を破らざるを得ない状況に遭遇した場合、どうすればよいのでしょうか。

牧野さん「刑法37条(緊急避難)1項で、刑事の責任が免責・軽減される可能性があるため、個人的な見解ではありますが、救助者自身も安全に救助することができる自信があれば、救助に向かうべきだと思います。ただ、刑罰が必ず科されないとも言い切れないので、とても難しい問題ですね」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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