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トランプ氏の真意は!? TPP離脱は「日米FTA」への布石なのか

トランプ次期米大統領がTPP離脱を「就任初日に表明する」と発表。承認案・関連法案が審議中の日本でも、その発効を絶望視する声が目立ちます。今回はトランプ氏発言の意味や自由貿易体制の今後について、専門家に取材しました。

米国のTPP離脱は日本にとって何を意味するのか…

 トランプ次期米大統領が11月21日、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を「就任初日に表明する」と述べ、選挙戦で訴えたTPPからの離脱方針を直ちに実行に移すことを発表しました。

 日本では目下、TPP承認案・関連法案が国会審議中ですが、安倍晋三首相が「(TPPは)米国抜きでは意味がない」と発言。トランプ氏の発表を受けて、TPP発効を“絶望視”する声が目立っています。

 オトナンサー編集部では今回、トランプ氏の発言の意味、そして自由貿易体制の今後について、国際政治学が専門の畠山圭一・学習院女子大学教授に話を聞きました。

国際ルールを嫌う米国の伝統的傾向

 トランプ氏が早々にTPP離脱を表明したことについて、畠山さんは「予想通り」と話します。しかし、注目すべきはTPP離脱ではなく、同時に、軸足を2国間交渉にシフトすると明言したこと。

「共和党の主流派とまとめた『政策綱領』を読むと、トランプ氏は自由貿易反対や保護主義とはひと言も言っておらず、むしろ国益に資する通商交渉を主張し、重要な通商交渉合意はレームダック議会に諮るべきでないとしています」。2国間交渉への“シフト”は、この主張と合致しているといいます。

 そもそも米国には国際ルールに縛られることを嫌う傾向があり、世界貿易機関(WTO)発足時には例外事項をいくつか設けたほか、その前身の「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)においてもその傾向が見られたそうです。

 畠山さんは「TPPのような多国間協定においては、米国の行動は国際ルールに縛られるため、各国との2国間交渉へシフトしていきたい思惑があるのでは」と指摘します。

 それでは、数ある政策の中でもトランプ氏が真っ先に表明したのが「TPP離脱」だったことの意味は何でしょうか。

「トランプ氏は、中東問題など外交政策については素人である分、慎重姿勢を崩していません。一方、経済政策については会社経営で培ったノウハウと経験があり、TPPは製造業や農業などに直結しているからでしょう」。貿易赤字による雇用喪失を懸念する中低所得者にウケやすく、同氏の「米国第一主義」にとって、通商交渉や経済政策が最優先課題であることも背景にあるようです。

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畠山圭一(はたけやま・けいいち)

学習院女子大学副学長

早稲田大学卒。学習院大学大学院中退。ジョンズ・ホプキンズ大学研究員、メリーランド大学客員研究員、ジョージ・ワシントン大学客員研究員、北陸大学助教授、学習院女子大学助教授を経て、2002年から同教授。現在、同大学副学長。専攻は、国際政治、米国政治外交、日米関係。主著に「米国官僚組織の総て」「日米新秩序の構想」(以上、行研)、「アメリカ外交の軌跡」(共著・勁草書房)、「アメリカ・カナダ」(編著・ミネルヴァ書房)、「中国とアメリカと国際安全保障」(編著・晃洋書房)、「台頭するインド・中国」(共著・千倉書房)。訳書に「宗教と国家―国際政治の盲点」(共監訳・PHP研究所)、「ウルカヌスの群像―ブッシュ政権とイラク戦争」(共訳・共同通信社)など。

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