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舌がん公表、堀ちえみさん巡る報道に緩和ケア医が覚えた違和感

舌がんのステージ4であることを公表した堀ちえみさん。一連の報道における「緩和ケア」の位置付けについて、緩和ケア医の筆者がその誤りを指摘します。

堀ちえみさん(Getty Images)
堀ちえみさん(Getty Images)

 筆者は緩和ケアを専門にする医師です。普段は、外来や病棟、在宅医療において、緩和ケアを必要とする患者の診療をしています。これまで、緩和ケアへの理解を広めるためにいくつか記事を書き、一般向けの書籍も出版してきました。

 最近、芸能人や著名方ががんであることを告白する報道が続いています。ワイドショーを中心として、周囲の方にコメントを求めるなど過剰に取り上げられる様子を見ていると、医療者としては、もっとそっとしておくべきなのではと感じていました。

「緩和ケア=治療しない」という捉え方

 そんな中、堀ちえみさんが舌がんのステージ4であることを告白し、「金スマ」出演をきっかけに次のような記事が各社の紙面を飾りました。

 それは、「最初は緩和ケアを考えるも、家族に申し訳なく手術することにした」という内容。緩和ケアを選ばずに、治療する道を選んだ心情などを告白したというものでした。これに呼応する形で、読者からも、「緩和ケアを選ばなくてよかった。頑張ってほしい」「緩和ケアは何もしないところだから手術して正解」といった趣旨のコメントがたくさん寄せられていました。

 これには、大きなショックを受けました。緩和ケアは「治療しない」という意味だと、マスコミ関係者や多くの国民が捉えていることが分かったからです。そして、それは間違っています。

 緩和ケアとは、積極的治療の有無とは関係なく、患者のつらさを和らげる治療やケアを意味しています。患者は手術や抗がん剤治療を受けながら、多くの苦痛を抱えています。治療による痛みや気持ちのつらさ、経済的な問題、仕事のことなど、和らげなければならない苦痛や困りごとが多いのです。政府も、すべての患者ががんと診断されたときから、緩和ケアを受けられる体制作りを支援しています。

 そして、堀さんには緩和ケアが必要です。ステージ4の舌がんなので、病気と長く付き合っていくことが必要です。おそらく、大手術であったでしょうし、今後想定される治療やリハビリも、痛みや副作用など相当なつらさが待ち受けていることは想像にかたくありません。気持ちが落ち込むことも、仕事復帰に向けての苦労もあるでしょう。そうした、つらさ全体を和らげる治療が緩和ケアです。堀さんが、現在治療を受けておられる病院で、しっかりとした緩和ケアを受けられることを願うばかりです。

 ただ、筆者が指摘したような、緩和ケアに対する間違った認識の背景には、医療者側の問題も多くあると感じています。日本の医療は最近まで、病気を治すことばかりでつらさに焦点が当てられることは多くありませんでした。そこで、緩和ケアは治らない人が受ける“敗北者の治療”であるという間違った認識が、一般の方だけでなく医療者にも無意識に根付いてしまっています。

 しかし、病気を少しでもよくしようとする治療と、つらさを和らげる治療は、どちらも大切であり、本来は一緒に受けるべき治療のはずです。どうか、つらい病気に立ち向かうすべての方が、そのつらさを少しでも和らげ、適切な治療を受け、望ましい生活ができる世の中になることを願うばかりです。

(緩和ケア医・内科医 廣橋猛)

廣橋猛(ひろはし・たけし)

緩和ケア医・内科医(日本緩和医療学会緩和ケア普及啓発WPG員、日本在宅医療学会代議員、日本内科学会認定内科医など)

私立麻布高校、東海大学医学部卒。東京大学医学部付属病院、三井記念病院における内科研修、亀田総合病院における緩和ケア・在宅医療研修を経て、現職は永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長。病院でも在宅でも切れ目なく診療する“二刀流スタイル”で、これまで2000人以上の患者のみとりに関わった経験を踏まえ、終末期患者が希望する場所で過ごせる社会づくりについて情報発信している。著書に「素敵なご臨終 -後悔しない、大切な人の送りかた」(PHP新書)がある。ツイッター(@hirohashi_med)。

コメント

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1件のコメント

  1. 正直言って大きな大学病院であっても自分の専科の事しか分からない医者や看護師は結構多い。
    例えば糖尿病から網膜症になり眼科で白内障を治療しに転科したりすると
    「糖尿病患者には投薬と食事療法とインスリンさえ打っておけば良い」と考えている看護師のまぁなんと多い事。
    人間十人十色。一人一人同じ病気の名前でも症状は違うものなのに、個人のカルテにある禁止要項などまるで見ずにアレルギー食品なんかを平気で出してきたり、使用不可の痛み止めを平気で処方しようとしてくる。
    患者が「それは〇〇科の先生に使用禁止されているからカルテを見て確認してほしい。」と言っても
    「患者が適当なことを言って投薬から逃れようとしている」と勝手に思い込む事なんか日常茶飯事である。

    大きな大学病院でもそういう状況なのに、小さな市民病院などで複数の科を受け持っている内科医や外科医に掛かると「一般的にコレを出しておけば大抵はなんとかなる」薬剤しか出してこない訳になる。