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【物議】石破茂首相の振る舞いにSNS「がっかり」 改めて考える「ビジネスマナー」の重要性<専門家解説>

SNSを中心に批判の声が上がっている、石破茂首相の「外交マナー」。マナーの専門家とともに、ビジネスシーンにおけるマナーの重要性を改めて考えます。

石破茂首相(2024年11月、EPA=時事)
石破茂首相(2024年11月、EPA=時事)

 SNSで批判の声が多数上がっている、石破茂首相の「外交マナー」。事の発端は、石破首相が出席した、ペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に関する報道。「各国の首脳と座ったまま握手を交わす」「右手を差し出した中国の習近平主席に対し、両手で握り返す」「集合写真の撮影に遅刻・欠席」…会議の場における石破首相の数々の立ち居振る舞いが報道され、「さすがにひどいと思う」「恥ずかしい」「官邸には指摘できる人がいないのか」「正直がっかりしました」「残念な気持ち」など、ネガティブな声が多数上がりました。一方で、「これってごく普通のビジネスマナーじゃないか?」「基本的なビジネスマナーができてないように見える」といった声も聞かれます。

 実際、石破首相のこうした立ち居振る舞いについて、マナーの専門家はどう見ているのでしょうか。一般的なビジネスシーンでのマナーにも通ずる「一社会人としての振る舞い」について、ヒロコマナーグループ代表で、収益アップに貢献する企業の人財育成マナーコンサルティングをはじめ、皇室のマナー解説やNHK大河ドラマ「龍馬伝」、NHKドラマ「岸辺露伴は動かない 富豪村」、同シリーズ最新作「密漁海岸」のマナー指導などでも活躍するマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに、見解を聞きました。

今回の状況では「立ってあいさつ」がマナー

Q.APEC首脳会議における石破首相の立ち居振る舞いについて、SNSでは批判的な声が多く聞かれます。ビジネスマナーの観点において、こうしたシーンにおける正しい立ち居振る舞いとはどのようなものでしょうか。

西出さん「まず、マナーの大前提からお伝えいたします。マナーは相手を思いやる心、気持ちから、失礼のない言動を表現し、互いに心地よい関係を生み出すためにあるものと考えます。その上で、ビジネスシーンにおけるマナーも、マナーの本質を踏まえた上で、互いの利益につながる関係性を築いていくために大切なことです。前者(心、気持ち)は目では見えない、耳では聞けないものですが、後者(言動)は見聞きできるものです。自分の気持ちを誤解されないように伝えるコミュニケーションとしても、マナーを身に付けておくことは、自身や自社を守ることにもつながります。

また、マナーは互いに思いやる気持ちを言動として表現するため、トラブルの発生を未然に防ぎ、その場をスムーズに進める役割も持ちます。これらの前提を踏まえた上で、今回の状況ではどのように振る舞えばよかったのかをマナー的観点からお伝えします」

【振る舞い(1)座ったまま、握手やあいさつを交わす】

相手が立ってあいさつをしてくだされば、自身が立てる状況であるならば、立ってあいさつをします。一方で、もしも相手が座ったままあいさつをすれば、自身も座ったままあいさつをするときもあります。相手に合わせることもマナーです。ただし、今回の状況では明らかに、立ってあいさつをすることがマナーといえます。

また、海外でのあいさつ時には、互いにアイコンタクトをしてから、動作に移ります。日本では「目上の人と目を合わせるのは恐れ多い」という気持ちから、目を合わすことをしない時代もありました。また、シャイであることからそれを苦手とする人もいらっしゃるでしょう。そのお気持ちはよく分かりますが、グローバルな視野で考える現代という意味においては、アイコンタクトをするとスムーズです。

ここで、もう一つポイントがあります。新入社員研修でもお伝えしていることですが、学生のときは「受け身」の姿勢・態度でもよかったことが、社会人になったら「能動的・自発的」な行動が求められたり、それが相手への敬意の表し方につながったりします。そこで、“相手よりも先に自ら行動する”という姿勢が大切な場面があります。

今回のような状況だけでなく、一般的な取引先との会合などでは、「先手で歩み寄り、あいさつをする」というコミュニケーションが、その後の関係性や評価対象の一つになり得ます。先手だけがよいと言い切ることはできませんが、あいさつの場面では、敬意あるほほ笑みの表情の「先手必笑」と姿勢で、「先手必勝」という結果につなげたいところです。

【振る舞い(2)握手を両手で返す】

今回のケースのように、右手で手を差し出されたら、感謝の気持ちを込めて、互いに目を合わせ、ほほ笑みながら右手で握手をします。このとき、相手の握る強さと同等の強さで握るとよいでしょう。

言動、所作は、気持ちを形で表現しているものと見なされます。あいさつとしての握手の場合は、必要以上に「両手で行う」ことはしなくてもよいです。例えば、選挙前などは、有権者の手を両手で握る場面をよく見ますが、それは明らかにお願いの気持ちからの動作と思われます。

ここで注意したい点は、人にはそれぞれにさまざまな事情があるということです。マナーはこうでなければいけない、と決めつけるものではありませんから、相手やその場の状況などに応じて、握手の仕方の型は変わることもあり得ます。

【振る舞い(3)遅刻する】

遅刻に関しては、新入社員研修で「時間管理」としてお伝えするビジネスマナーの一つです。遅刻をすることで、関係者に迷惑や心配をかけることのないよう、時間厳守を意識することは大事なことです。

とはいえ、電車の遅延や道路渋滞など、まさかの事態もあり得ます。そのようなことも想定し、時間に余裕をもった計画を立て、行動することや、別ルートでそれらを回避する手段など、いくつかの案を用意するといった事前の準備も大切です。その後の関係性やビジネスに特段支障はないとしても、「遅刻をすることで一緒に写真に写ることができなかった」とか「よい話や音楽などを聞くことができなかった」など、せっかくの機会を逃す結果になります。

致し方ない遅刻は現実にあるでしょう。そのようなときに、「何とか急いで」と焦る気持ちから、階段を踏み外し転倒したり、人とぶつかって相手に傷を負わせたり、スピードを出しすぎて事故にあったりすることのないよう、十分に気を付けて行動していただきたいと思います。そうならないためにも、可能であるならば、やはり時間に余裕をもった行動計画を立てることを心がけるとよいですね。

【画像】SNSで批判の声も… 中国の習近平主席と“両手で握手”を交わす石破茂首相

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西出ひろ子(にしで・ひろこ)

マナーコンサルタント、マナー解説者、美道家

ヒロコマナーグループ代表。一般社団法人「マナー&プロトコル・日本伝統文化普及協会」代表理事。大妻女子大学卒業後、国会議員などの秘書職を経て、マナー講師として独立。マナーの本場英国へ。オックスフォードにて、オックスフォード大学大学院遺伝子学研究者のビジネスパートナーと1999年に起業し、お互いをプラスに導くマナー論を確立させる。帰国後、名だたる企業300社以上にマナーコンサルティングなどを行い、他に類を見ない唯一無二の指導と称賛される。その実績はテレビや新聞、雑誌などで「マナー界のカリスマ」として多数紹介。「マナーの賢人」として「ソロモン流」(テレビ東京)などのドキュメンタリー番組でも報道された。NHK大河ドラマ「龍馬伝」をはじめ、NHKドラマ「岸辺露伴は動かない 富豪村」、映画「るろうに剣心 伝説の最期編」などのドラマや映画、CMのマナー指導・監修者としても活躍中。著書は28万部突破の「お仕事のマナーとコツ」(学研プラス)、16万部を超える「改訂新版 入社1年目 ビジネスマナーの教科書」(プレジデント社) など監修含め国内外で100冊以上。「10歳までに身につけたい 一生困らない子どものマナー」「かつてない結果を導く 超『接待』術」(共に青春出版社)など子どものマナーから、ビジネスマナー、テーブルマナーなどマナーのすべてに精通。ヒロコマナーグループ(http://www.hirokomanner-group.com)。
※「TPPPO」「先手必笑」「マナーコミュニケーション」「真心マナー」は西出博子の登録商標です。

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