疲れたときに“甘いもの”を食べてもいいの? 医師が「かえって疲労が増す」と注意を促すワケ
ネット上では「甘いものを食べ過ぎると、かえって疲労が増す」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。疲労が生じる原因のほか、甘いものを食べたくなったときの適切な対処法について、医師に聞きました。

糖質が不足すると、疲れやすくなったり、思考力が低下したりするといわれています。そのため、疲れを感じたときほど、甘いものを食べたくなる人は多いと思います。
一方、ネット上では「甘いものを食べ過ぎると、かえって疲労が増す」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。疲労が生じる原因のほか、甘いものを食べたくなったときの適切な対処法について、医療法人松徳会松本クリニック(三重県松阪市)の松本和隆院長に聞きました。
血糖値の急上昇→急降下で疲れを感じるように
Q.そもそも、疲労を感じる原因について、教えてください。
松本さん「人間が疲労を感じる原因は多岐にわたりますが、主に『生理的要因』『心理的要因』『環境的要因』『社会的要因』という4つの要因が複雑に組み合わさることで疲労を感じることが多いです。
まず、生理的要因としては、例えば、長時間の運動によって筋肉が疲労し、筋肉や脳でエネルギー源であるグリコーゲンやグルコースが消費され、エネルギー不足に陥りますし、睡眠不足が続くと脳や体の休息が妨げられます。
筋肉が繰り返し使われると、乳酸などの代謝物が体内に蓄積し、これが疲労感を引き起こします。また、日々の食事で栄養バランスが偏り、十分なエネルギーが供給されないと、体はエネルギー不足に陥り、疲労を感じやすくなります。
次に、心理的要因としては、ストレスやうつ病、不安が大きな役割を果たします。仕事や人間関係などの精神的ストレスは、自律神経系に影響を与え、疲労感を増幅させることがあります。特に慢性的なストレスや心理的なプレッシャーは、身体的な疲労以上に疲れを感じさせることがあります。疲れが長引く場合には精神的な病気の可能性もあるため、医師への相談が必要になるかもしれません。
現代社会では、環境的要因も見逃すことができません。例えば、騒音や過度な温度変化、不適切な照明などの物理的な環境条件は、集中力を削ぎ、疲労感を引き起こします。特に夏は空調による極端な気温の変化により、自律神経が不調を来すこともあります。また、長時間のデスクワークや同じ姿勢を続けることも、体に負担をかけ、疲労を感じさせる原因となります。
疲労の大きな社会的要因としては、過労や長時間労働、適切な休息が取れない生活習慣です。仕事や家事、育児などの過剰な負担がかかると、体力的・精神的なリソースが枯渇し、疲労が蓄積します。
適切な休息やバランスの取れた食事、ストレス管理、適度な運動などを通じてこれらの要因を軽減し、疲労感を和らげることが重要です。もし疲れが長引く場合は病気の可能性も考えられるため、早めに病院に相談することも検討しましょう」
Q.ネット上では、「糖質の取り過ぎで疲れやすくなる」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。
松本さん「本当です。糖質の取り過ぎで疲れやすくなるのは、具体的な生理学的背景があります。人間は甘いものを多く摂取すると、小腸で吸収が速やかに行われ、血糖値が急上昇します。
体はこの血糖を下げるために膵臓(すいぞう)からインスリンと呼ばれるホルモンを多く分泌し、その結果、血糖が肝臓や筋肉、脂肪細胞に吸収され急激に下降するのですが、この機序が一気に進むと疲労やだるさが生じます。これは低血糖状態への移行によるもので、短期間でエネルギーが枯渇するため、疲れを感じやすくなります。
また、長期的には高糖質食を継続的に摂取することで内臓脂肪が蓄積しますが、これがインスリンの作用を弱めてしまい、糖尿病の発症を助長してしまうこともあります。インスリンの作用を弱めることを『インスリン抵抗性』といいます。
糖尿病を発症して慢性的な高血糖状態が継続すると、インスリン作用の不足によって血糖が細胞内に十分に取り込まれないことにより、疲労感を感じます。
疲れたときに甘いものを摂取すると一時的に血糖値が上がり、気分が良くなるかもしれませんが、その後の血糖値の急降下が疲労を招くため、普段からバランスの取れた食事を心掛けることが大切です」
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