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飲酒後に暴行⇒「酔って覚えていない」 「しらふ」よりも罪が軽くなる? 弁護士が解説

他人に暴行した際に酒に酔っていた場合としらふの場合とでは、刑罰の重さに違いはあるのでしょうか。弁護士に聞きました。

飲酒後に他人に暴力を振るった場合、しらふのときと比べて刑罰の重さは変わる?
飲酒後に他人に暴力を振るった場合、しらふのときと比べて刑罰の重さは変わる?

 1月は新年会のため、酒を飲む機会が増えますが、飲み過ぎによるトラブルには注意が必要です。中には、帰宅時に酔っ払ってタクシー運転手や駅員などに暴力を振るってしまい、「酒に酔って覚えていない」と言い訳する人もいます。

 他人への暴行時に酒に酔っていた場合としらふの場合とでは、刑罰の重さに違いはあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

基本的に刑罰の重さに違いはなし

Q.そもそも、酔っぱらって他人に暴力を振るった場合、どのような刑罰を科される可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「酔っぱらっているかどうかにかかわらず、人に暴力を振るった場合、暴行罪や傷害罪などに問われる可能性があります。

暴行罪は、暴力を振るったけれど、加療が必要なほどのけがを負わせなかった場合に成立し、法定刑は『2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留(1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑)もしくは科料(1000円以上1万円未満の金銭を支払わせる刑)』です(刑法208条)。

傷害罪は、暴力を振るって、加療が必要なほどのけがを負わせた場合に成立し、法定刑は『15年以下の懲役または50万円以下の罰金』です(刑法204条)。また、暴力を振るった結果、相手が亡くなってしまったとすると、傷害致死罪が成立し、法定刑は『3年以上20年以下の有期懲役』です(刑法205条、刑法12条1項)」

Q.酒を飲んで記憶を失った状態での暴行と、しらふでの暴行とでは、相手に同じ程度の暴行を加えた場合でも、刑罰の重さは異なるのでしょうか。

佐藤さん「まず、飲酒時の暴行は、ほとんどのケースで完全責任能力が認められ、しらふの状態で暴行したのと法的には変わりません。『酒のせいでやってしまった』と話すことで、『飲酒時の行為だから許してもらえるだろうと軽く考えている』『反省していない』と評価され、量刑で不利になることはあり得るでしょう。

一部の異常な酩酊(めいてい)状態で暴行したケースでは、『心神喪失』や『心神耗弱』に当たり、完全な刑事責任を問うことができない可能性が出てきます。『心神喪失』とは、善悪の判断が全くつかない状態、または、善悪の判断はできたとしても、その判断に従って自分の行動を制御することが全くできない状態を指します。

『心神耗弱』とは、善悪を判断する力や、その判断に従って自分の行動を制御する力が著しく劣っている状態を指します。『心神喪失』であれば無罪となり、刑罰は科されません(刑法39条1項)。『心神耗弱』の場合、刑は必ず減軽されます(刑法39条2項)。

しかし、飲酒により他人を傷つける可能性が高まることを認識しながら酒を飲み、自ら善悪の判断がつかない状態をつくり出して暴力を振るっているのに、刑事責任を問われないのは正義に反します。そのため、法的には、酒を飲む時点で自由(責任能力)があるのだから、犯罪の責任を問うことができると考えられており(『原因において自由な行為』の理論)、実際、刑事責任を認めた判例もあります。

従って、酒を飲んで暴力を振るい、そのときの記憶があいまいなケースであっても、原則として、しらふでの暴行と同様の刑事責任を問われると考えてよいでしょう」

Q.「上司から無理やり酒を飲まされた」「新年会で一気飲みをさせられた」といった状況から記憶を失って暴行した場合、刑罰の重さに違いは出るでしょうか。また、無理やり飲ませた側に法的責任が生じる可能性はありますか。

佐藤さん「『上司から無理やり酒を飲まされた』『新年会で一気飲みをさせられた』といったケースでは、情状の面である程度考慮され、多少ですが量刑で有利になる可能性はあるでしょう。

無理やり飲酒させることは、民事上、不法行為にあたり、無理やり飲まされた人から損害賠償請求を受ける可能性があります。また、無理やり飲まされた人が、急性アルコール中毒になるなど体調を崩した場合、飲ませた側が傷害罪に問われる可能性もあります」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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