高齢化社会なのに会員数激減? 「老人クラブ」が“衰退の一途”をたどる3つの理由
全国に存在する「老人クラブ」。65歳以上の高齢者人口が増加する一方で、会員数は大きく減少しているようです。その理由と“必要性”について、筆者が見解を示します。
全国に8万5000以上の数がある「老人クラブ」。高齢者を会員とし、健康づくりのためのスポーツや社会参加などの活動を行う、地域を基盤とした自主的な組織です。会員数は、1998年の887万人をピークに、2022年は438万人と大きく減少しています。65歳以上の高齢者人口は、1998年の2051万人から、2022年に3623万人と大きく増えているので、一見すると不思議に感じます。
老人クラブに加入している人の割合は43%から12%にまで激減しているわけですが、その理由は何なのでしょうか。高齢期のライフスタイルの充実について調査・研究・提言するNPO法人「老いの工学研究所」理事長を務めている筆者が、考えてみたいと思います。
なぜ、老人クラブの会員数が減っているのか
第一に、高齢者が「少数派」ではなくなったことです。1998年の高齢化率(総人口に対する高齢者の割合)は16%でしたが、2022年は29%。高齢者は少数派ではなくなりました。
いつも若い年代の人たちの中で暮らしていれば、「たまには年寄りだけで集まって話したり、楽しんだりしようか」と思うでしょうが、今は、外に出ればいつでも同世代がいるような状態ですから、わざわざ集まる動機が生まれませんし、その必要もありません。
第二に、地域限定の閉じた集まりであることが挙げられます。老人クラブ連合会のホームページには、「日常的に声をかけ合い、歩いて集まることのできる小地域の範囲で組織しています。クラブの規模は、おおむね30名から100名を標準としています」と記載されていますが、昔からの顔見知り同士が、昔からの関係そのままに集まっている状態が想像できます。先輩・後輩や上下の関係も存在しているかもしれません。そこにある硬直的な人間関係が心理的なハードルとなって、入会する人を減らしているように思います。
そして第三に、高齢者を対象としたさまざまなサービスが充実してきて、老人クラブで企画・実施されるものとは、その選択肢の幅にもレベルにもかなりの差があることです。スポーツ、文化・教養、趣味といった多様な講座やイベントを、高齢者大学校や文化センター、行政、デイサービス、その他さまざまな団体や企業が提供していますが、それを仕事として取り組んでいる人たちの企画力に、老人クラブの手作りが太刀打ちできないのは当然といえます。
アメリカの心理学者・サラソンは、人と人とのつながりに対する肯定的な感覚のことを「コミュニティー感覚」と呼び、次のように定義しました。
「他者との類似性の知覚、他者との相互依存的関係の承認、他者が期待するものを与えたり自分が期待するものを他者から得たりすることによって相互依存関係を進んで維持しようとする気持ち、自分はある大きな依存可能な安定した構造の一部分であるという感覚」
この観点から老人クラブを見ると、まず「他者との類似性」は、「高齢者であること」と「その地域に住んでいる」という2つしかありません。それはまた、外形的なものに過ぎません。
一方で、例えば高齢者大学校やシニアカレッジのような所では、「歴史好き」など趣味や関心が共通しており、学びたいという欲求にも類似性があります。それは、外形的ではなく内面の類似性であり、だから、遠くからでもわざわざ通ってくる人が多いのでしょう。
次に、「他者との相互依存的関係」では、地域で長く暮らしてきた中でできた先輩・後輩関係や上下関係がありそうな老人クラブに比べて、高齢者大学校では、講師やリーダーの前では皆「受講生」という同じ立場になって教え合う、助け合う、褒め合うといった相互依存の関係ができやすくなっています。そして、その心地よい相互依存関係を維持しようと努め、その場の発展にも協力的な姿勢をもつようになってきます。
実際、学びの場でも、スポーツ活動やサークルでも、目的や趣味・関心を同じくして集まった高齢者の方々の言動は、とても規範的です。コミュニティー感覚にあふれている状態といえるでしょう。
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