「一期一会」「見返りを求めない」 日常生活に役立つ“禅”の教え
「禅」の教えを知ると、日常生活でどのようなメリットがあるのでしょうか。僧侶が監修した書籍から読み解きます。
アップルの創業者で2011年に亡くなったスティーブ・ジョブズさんをはじめ、世界のビジネスリーダーたちも学んでいる禅(ぜん)の教えは、いまや世界標準の教養の一つとなっています。禅の教えを知ると、不安やイライラ、マイナス思考などを自分でコントロールできるようになるほか、何が起きてもすぐ平常心を取り戻せるしなやかな心を育めるといわれています。
今回は、僧侶、作家として活動する大愚元勝さんが監修した「1日3分でしなやかな心が育つ 禅のことば」(講談社、大愚元勝監修)の中から、現代の私たちにも役立つ「禅」の教えを解説します。
一期一会の意味とは?
禅と関係が深いものに茶道があります。茶道は、鎌倉時代の禅の僧侶・栄西が中国から持ち帰り、広めたといわれています。そのため、茶室にはよく禅の言葉の掛け軸が掲げられています。
掛け軸でよく目にする「一期一会(いちごいちえ)」という言葉の本当の意味をご存じでしょうか。大愚さんは、前掲書で次のように解説しています。
「一期一会は、そんな茶道を広めた立て役者・千利休の言葉がもとになったとされています。相手にお茶を点(た)てるとき、もう二度とその人と会えないかもしれないという気持ちでいなさいと伝える言葉です。千利休が生きていたのは安土桃山時代で、今のように誰とでもすぐに会えませんでした。戦や病気などで、昨日会った人と再び会えないこともよくあったのです」(大愚さん)
「現代に置き換えると、たまたま出会えた人を大事に友だちと毎日会えるのは当たり前のことではありません。急に転校が決まるかもしれないし、病気やケガで学校に来られなくなるかもしれないからです。日本語には『袖振り合うも多生の縁』という言葉もあります。 道端で他の人と服の袖が触れ合うのも、何かのご縁があるからだ、という意味です」(同)
出会った人たちを大切にしましょうと、「一期一会」は教えているのです。
「無功徳」の意味は?
6世紀に中国に禅を広めた達磨(だるま)大師が、梁(りょう)の武帝と会った際、「私はいくつもの寺を建てて、たくさんの僧たちを育てるなど、仏教のためにいろいろ頑張った。 私にはどれくらい功徳(ご利益)があるだろうか」と尋ねられました。
大愚さんによると、達磨大師は次のように答えたそうです。
「達磨大師は『無功徳(むくどく)』という一言だけを返しました。仏さまのご利益とは、お礼や見返りを求めない『まっさらな心そのもの』のことです。どんなにいいことをしても、そこにお礼や見返りを求めていたら功徳はない、という意味なのです。隣の席の人に消しゴムを貸したのに『ありがとう』と言われなかったらイラッとするかもしれません」(大愚さん)
「このイラッという感情は『親切にしたのに「ありがとう」という自分へのお返しがない』と怒っているものです。イラッとしているとき、この人の気持ちは相手ではなく、自分に向かっています。そうすると、怒り・恨みなどの感情につながります。相手のことを思って、感謝されなくても気にしない。それが本当に『親切な人』です」(同)
本書は、「禅」について詳しく知らない人を対象にした入門書です。もともと子どもの教育用に書き上げられたものですが、事例にリアリティーがあるため、大人にもお勧めできます。
「禅」を理解することで、物事の正しい道筋を見つけられるかもしれません。
(コラムニスト、著述家 尾藤克之)
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