オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

治安が「良い街」「悪い街」の違いは? 元警視庁公安部外事課捜査官に聞いてみた

引っ越し先の街の治安が良いか悪いか、気になったことはありませんか? そこで元警視庁捜査官で街の防犯事情にも詳しい専門家に、治安の良しあしの基準や違いなどを聞きました。

治安の良しあしとは…
治安の良しあしとは…

 “秋の引っ越しシーズン”を迎えました。引っ越す街を選ぶ際に治安が良い・悪いといったことを考慮する人も少なくないと思います。そこで、治安が「良い街」「悪い街」の違いはどのようなところにあるのか、元警視庁捜査官で街の防犯事情にも詳しい日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんに教えてもらいました。

「犯罪機会論」を基準に

Q. 元警視庁公安部外事課捜査官の目から見て、治安が「良い街」「悪い街」という基準はどのように設けたら良いでしょうか。

稲村さん「まず、なにをもって治安が良いと言えるのかといった定義が必要になります。例えば、東京の中心である千代田区は、オフィス街が立ち並び、家賃相場も高く、人気のエリアですが、犯罪発生率はワーストです。有楽街や東京駅周辺で詐欺事件が多く発生しているほか、秋葉原では万引きやすりなどの犯罪が顕著です。さらに、外国人観光客が訪れるため、さまざまなトラブルが発生しています。

しかし、詐欺など目に見え辛い犯罪が多い地域より、新宿や渋谷といった歓楽街を持つ地域の“暴行”や“傷害”といった『粗暴犯』の方が“体感治安”は悪いと感じるのではないでしょうか。

“住む”という観点で言えば、家族の安全とお子さんの健やかな成長といった部分で検討すると、粗暴犯や性犯罪、少年犯罪、交通事故件数などが気になるかと思いますので、まずはご自身で気にすべき犯罪を念頭に置いていただく必要があります。

Q.では、治安が「良い街」と「悪い街」の違いはどのようなところでしょうか。

稲村さん「防犯におけるグローバル・スタンダードな考え方とし『犯罪機会論』というものがあります。犯罪の原因や、犯罪をしたいという動機をもった人物がいても、犯罪を実行できる機会がなければ、犯罪は起こらない=防止できるという考え方です。

この犯罪機会論における犯罪の抑止には、3つの要素があります。
(1)領域性:犯罪者の力が及ばない範囲を明確にする(区画を明確にする)。
(2)監視性:犯罪者の行動を把握できる。
(3)抵抗性:犯罪者から加わる力を押し返そうとする。

この3つの要素が完成されている地域は犯罪に強いと言えます。逆に、この3つの要素が完成されていない場合とはどのようなものでしょうか。

(3)の抵抗性は、各防犯意識に近いので割愛しますが、例えば、(1)で言えば、きちんと区切られていない場所、(2)で言えば、周囲の目が届かない場所といった具合で以下のように例示できます。

・裏通りや入り組んだ道、うっそうとした道
・使用されていない家や建物、空き地
・昼間でも人が少ない児童公園
・街灯が不十分(=暗い)
・ゴミ出し場が汚い(=地域の監視が弱い)
・地域でボランティア活動がない(=地域の監視が弱い)

といった具合です。これらが多い地域は犯罪の抑止に“弱い”=犯罪者にとって好都合ということです。これらの観点を持つことで、治安の良い街、悪い街の違いが見えてきます。

ずばり、治安の良い街、悪い街の違いは「犯罪機会論」の観点で、犯罪が行いやすい機会があるかどうか、になります」

Q.治安が「良い街」の特長があるようでしたら教えてください。

稲村さん「例えば、東京・文京区は東京都内で犯罪発生率が最も低いです。犯罪が多い街と比較して、の前提で説明しますと、そもそも歓楽街がなく、東京ドームなど人が集まる場所がありますが、警察官による警備の機会も多く、抑止力が働いているのが特徴です。また、学校が多いですが、その学校における警備意識が高いほか、地域による街の景観への意識も高く、比較的地域の目が行き届いているのが特徴です。

実際に街を細々見ると、領域性や監視性で弱い部分もありますが、他の地域と“比較”すると治安が良いと言えます。

Q. では、治安が「悪い街」の特徴も教えてください。

稲村さん「ずばり『犯罪機会論』の3つの要素が弱いことが特徴となります。前述の例示に加え、例えば以下の特徴が挙げられます。

(1)領域性が欠けている
空き家が点在し虫食い状態である。勝手に人が入れる駐車場が多い。
(2)監視性が欠けている
裏通りが複雑。公衆トイレが多い。木が生い茂り手入れされていない。
(3)抵抗性が欠けている
落書きやシールの貼付が多い。路上駐車が多い。街路樹が手入れされていない。

このほかにも、歓楽街があることや多くの人が往来するターミナル駅がある地域は当然確率的に犯罪が多くなります。

上記はあくまで目安の一つですが、自身のライフステージや家族構成・年齢などに応じ気にすべき犯罪が変わってきます。

まず自身で懸念すべき犯罪とは何かを考えた上で、例えば引っ越し先として検討している地域の『XX県警察』プラス『犯罪発生件数』などをインターネット検索することで、各都道府県警が公表している統計データが見られますので、他地域と比較して検討先の傾向をつかむと良いと思います」

(オトナンサー編集部)

【分かりやすい!】治安が「悪い街」の特徴を写真で! やっぱりイヤ! 雰囲気が怖い!

画像ギャラリー

稲村悠(いなむら・ゆう)

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事/国際政治・外交安保オンラインアカデミー「OASIS」フェロー

 警視庁元警部補。警察学校を首席で卒業し、同期生で最も早く警部補に昇任。警視庁公安部外事課の元公安部捜査官として、カウンターインテリジェンス(スパイ対策)の最前線で多くの諜報活動捜査及び情報収集に従事、警視総監賞など多数を受賞。退職後は金融機関社内調査や調査委員会による不正調査従事を経て、経済安全保障や地政学対応コンサル、諜報活動対策支援や研修、安全保障・危機管理講師などで活躍中。多数のテレビ番組に出演しているほか、メディアで寄稿も行っている。著書「元公安捜査官が教える『本音』『嘘』『秘密』を引き出す技術」(WAVE出版)がある。

コメント