悪質「訪問買い取り」 大掃除シーズンに増加 狙われやすい人・手口・対処法を元刑事が解説
大掃除シーズンになると、悪質な買取業者が自宅に来て、不当に物品を買い取る「訪問買い取り(押し買い)」というものがあります。近年、トラブルの増加が見られる「訪問買い取り」について、元刑事に手口と対応策について聞きました。
悪質な買取業者が自宅に来て、不当に物品を買い取る「訪問買い取り(押し買い)」というものがあります。近年、押し買いに関するトラブルの相談が、増加しています。大掃除を行う年末や、引っ越しなどが多くなる年度末に押し買いが増加するともいわれています。手口と対応策について、元刑事であり防犯事情に詳しい日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんに聞きました。
悪質な買い取り業者の狙いは「貴金属」「ブランド品」「家電」など
Q.訪問購入(押し買い)とはどのような手口なのでしょうか。
稲村さん「悪質な買取業者が自宅に訪問してきて極端な安価で貴金属を買い取ったり、暴言などで相手を威圧して無理やり、買い取りを行ったりします。時には、勝手に貴金属を持ち去ってしまうような悪質な手口があります。
実際に起きたケースなのですが、一人暮らしの高齢女性が、自宅のガレージを無断でのぞく業者風の男を発見し、声を掛けたところ『ガレージにあった木刀を買い取りたいのですが…』と言われたようです。女性は、今さら、木刀なんて…と不審に思い、その場で興味がない旨を伝え、追い返したところ、同日の夕方に、不審な男が同僚らしき男を引き連れ、再度訪問してきたということです。
女性は玄関口で対応しましたが、男が名刺を差し出して「木刀を売ってほしい。ダメならはがき1枚でも買い取る。ノルマがあるのでぜひ協力してほしい」と無理やり自宅に上がろうとしたため、警察に通報すると強く言い、男は黙って帰ったということです。この時、同僚らしき男はガレージの中に入って物色していた様子だったということです。渡された名刺には、ある有名企業の名前と連絡先が入っていたそうですが、連絡したところ、関係がないと言われたそうです。
押し買いでは、業者が家に訪問してきて「貴金属はないか」としつこく迫り、話に渋々応じた人から相場よりはるかに安い値段で貴金属を買い取ったりします。
その他にも、業者が数時間も居座り、「不要な貴金属はないか?」と質問してきて、貴金属はないと伝えたところ、大声で怒鳴られて怖い思いをしたというケースも報告されています。
また、訪問してきた男に自宅の品を見せている最中に、別の男が査定とは関係のない品を盗んだケースなども発生しています。この際にも、正規の企業を装った名刺を手渡す手法がとられていますが、悪質業者が勝手に実在の企業名を装って名刺を作成していたりもします。訪問された人も騙されてしまうケースがほとんどです。
さらに、暴力や暴言を使って威圧し、「売買契約が成立しただろう!」と強要する業者も報告されています。
その他、国民生活センターによれば、『購入業者が契約書面を交付しない。物品の特定ができないような記載をするなど記載内容が十分でない』、『購入業者がクーリング・オフに関する記載をした書面の交付やクーリング・オフの期間内は物品の引渡しを拒むことができる旨の告知を行っていない』などといった悪質なトラブルも伝えています。
そもそも、古物の買い取りには、古物営業法の許可が必要ですが、押し買いを行う一部の業者は、許可を取得していないケースもあります。また、許可を有していても、上記のように法律を順守していない業者も報告されています。中には、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ウクライナへの支援を口実に衣服を買い取りたいと訪問し、その中で貴金属を買い取ろうとした事例も報告されています」
Q.どのような人が押し買いから狙われたりするのでしょうか。
稲村さん「国民生活センターが発表した、2022年度の調査では『契約当事者の年代別件数』で、70歳代が6956件中、1994件と最も高く、続いて80歳代が1974件、60歳代が1184件、50歳代が787件、90歳以上と40歳代が353件という順になっていました。また、『契約当事者の男女別件数』の割合では、7436件中、女性が5627件(75.7%)、男性が1809件(24.3%)という結果になっています。年代別を見ても、高齢者がその標的となっていることは一目瞭然です。また、男女別では圧倒的に女性が多いことが分かります。
訪問してくる業者は男性が多く、抵抗力の弱い女性高齢者を狙っている上、特に一人暮らしであれば、無理やり押し買いをすることも容易だと推察できます。
そして、高齢者を相手に、認知症を利用したりすることもあります。また、早口でまくしたて、性急な判断を促し、時には恐怖心をあおったりすることで、書面などの証拠となるものを残さずに取引を完了させ、急いで引き上げることもあります」
Q.押し買いでは、どのようなモノが狙われるのでしょうか。
稲村さん「押し買いを行う業者は、まずは売っても価値のないようなモノから買い取るような言動を行い、あたかもなんでも買い取る姿勢を見せます。彼らの狙いは不当に安い値段で手に入れ、転売などで金を稼ぐことが目的です。よって、『貴金属等の宝飾品』『ブランド品』『着物』『骨董(こっとう)品』『家電』『自動車』『バイク』などが狙われたりします。
Q.押し買いに遭わないための対策を教えてください。
稲村さん「高齢者の方は、絶対に一人で対応しないことです。それは訪問の場合は当然ですが、電話で勧誘を受けた場合も一度切り、ご家族など周囲の人に相談するようにしてください。
そもそもの話になりますが、自身が何か物を買い取ってもらう気がないのに、業者が訪問してきた場合や勧誘の電話を受けた場合は毅然(きぜん)と断ることが重要です。
その上で、以下のポイントを記載します。
(1)家に絶対に入れないこと。無理やり家に入ろうとした場合は即座に110番通報しましょう。
(2)相手の身分、連絡先、社名、古物商の許可証などを確認する。ただし、名刺などは実在する企業を無断で使用している場合もあります。古物商の許可証を見たことがない人が多数だと思うので、偽物だと見抜くのは非常に難しいと思います。
(3)買い取りに及んだ場合、買い取り条件などの書面を必ずもらうようにしましょう。
不運にも納得のいかない買い取りが行われてしまった場合、押し買いにはクーリング・オフが適用されます。契約日から8日以内に事業者に連絡することで解約ができます。また、クーリング・オフでは、業者側から売り手への返送料や違約金は一切発生しません。クーリング・オフは無条件での解約措置です。そのため、押し買い業者の中には、名前や住所、連絡先を告げず、取引した品物や金額などの記録を一切残さないで立ち去る者もいます。
よって、訪問業者が『どこの誰か』を確認しておくことが極めて重要で、訪問業者の連絡先をその場で確認することが必要です。会社に電話してくれと言われるかもしれませんが、目の前で電話をかけ、実際に訪問している業者がその会社と関係があるか確かめてみるのも良いと思います。
もし、被害に遭ってしまった場合は、速やかに消費生活相談窓口に相談してください。また、脅迫まがいの言動を受けた場合は、即座に警察に通報しましょう。
年末で家の片づけを行う人も多いでしょう。悪質業者による押し買いの実態を理解し、家族で情報共有をした上で十分に注意して、新年を迎えるようにしましょう。
(オトナンサー編集部)
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