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「カラス死なせて逮捕」って本当? 「鳥獣保護法」について弁護士に聞く

カラスを殺虫剤入りの餌で死なせた男性が鳥獣保護法違反容疑で書類送検されたとの報道がありました。鳥獣保護法について弁護士に聞きました。

カラスを死なせると違法行為?
カラスを死なせると違法行為?

 ごみ置き場を荒らすカラスを駆除しようとして、殺虫剤入りの餌を置いてカラスを死なせたとして、男性が鳥獣保護法違反容疑で書類送検されたとの報道がかつてありました。カラスや、自宅のベランダにふんを落とすハトに悩まされている人は多いと思いますが、勝手に駆除すると法律違反になるようです。鳥獣保護法の概要と、法に触れずにハトやカラスの被害を避ける方法について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

懲役刑の場合も

Q.鳥獣保護法の概要を教えてください。

佐藤さん「鳥獣保護法(鳥獣の保護および管理ならびに狩猟の適正化に関する法律)は鳥獣の保護や管理を図るための事業の実施や、狩猟用の道具を使用する際の危険の予防に関する規定などを定めた法律です。

その目的は鳥獣の保護や管理、狩猟が適正に行われるようにして、生物の多様性を確保し、私たちの生活環境を守り、農林水産業の健全な発展に寄与すること、そして、自然環境の恵みを享受できる国民生活を確保し、地域社会の健全な発展に資することにあります(同法1条)。

この法律でいう『鳥獣』とは、鳥類、または哺乳類に属する野生動物のことです(同法2条1項)。そのため、『鳥獣』の中には、野生のカラスやハト、スズメなどが広く含まれます。ただし、『環境衛生の維持に重大な支障を及ぼすおそれのある鳥獣』などは例外とされており、クマネズミやドブネズミといった動物には適用されないことになっています」

Q.殺虫剤などが入った餌をまいて、カラスやハトを死なせた場合、どのような罰則があり得るのでしょうか。

佐藤さん「鳥獣保護法8条では、原則として、鳥獣を捕獲したり、殺傷したりすることを禁じています。これに違反して、『狩猟鳥獣』(肉や毛皮を利用する目的などで捕獲または殺傷の対象となる鳥獣であって、その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないもの。マガモなど)以外の鳥獣の捕獲や殺傷を行うと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処すると定められています(同法83条1号)。

従って、殺虫剤などが入った餌をまいて、カラスやハトを死なせた場合、この規定により罰せられる可能性があります。なお、ハシブトガラスやキジバトといった鳥獣は先述した『狩猟鳥獣』に指定されていますが、たとえ狩猟鳥獣であっても、法律などで定められた狩猟期間に、認可を受けた猟区で適法な方法で捕獲する場合を除き、原則として捕獲が禁じられています。期間や区域、方法を守っていない場合は罰則の対象となるため、注意が必要です」

Q.毒餌以外の方法でカラスやハトを駆除した場合、どのような罰則があり得るのでしょうか。

佐藤さん「鳥獣保護法では、鳥獣を捕獲したり、殺傷したりすることを原則禁じており、捕獲や殺傷の具体的な方法を問わず、禁止の対象としています。そのため、殺虫剤などが入った餌をまいた場合だけでなく、その他の方法でカラスやハトを駆除した場合にも、同様に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性があります」

Q.カラスやハトを追い払おうと、次のような行為をした場合、鳥獣保護法に触れる恐れはありますか。
・ロケット花火をハトやカラスに向けて発射する
・水鉄砲で水をかける
・棒などでたたく
・剣山のような「鳥よけ」をベランダの手すりなどに設置する

佐藤さん「カラスやハトに向かって、ロケット花火を発射したり、棒などでたたいたりすれば、鳥獣を傷つける恐れがあります。鳥獣保護法は、鳥獣を捕獲したり、殺傷したりする行為が未遂に終わった場合であっても罰すると定めています(同法83条2項)ので、実際に花火や棒が命中して、カラスやハトが傷ついた場合はもちろん、当たらなかったとしても罰せられる可能性があります。

これに対し、水鉄砲で水をかけたとしても、カラスやハトの捕獲や殺傷にはつながらないと思われますので、この行為が鳥獣保護法に触れる恐れはないでしょう。ただし、水をかけることはカラスやハトを刺激することになり、追い払うどころか攻撃される危険もありますので、避けた方がよいと思います。

剣山状の『鳥よけ』は市販されており、これをベランダの手すりなどに設置したとしても鳥獣保護法に触れることはありません。市販されている商品は鳥が傷つかないような構造になっているはずなので、必要に応じて活用するとよいでしょう」

Q.ちなみに、ハトやスズメを料理として出している店がありますが、これはなぜOKなのでしょうか。

佐藤さん「日本の鳥獣保護法では、原則として、鳥獣を捕獲したり、殺傷したりすることを禁じていますが、狩猟鳥獣であるスズメや一部のハトについては決められたルールを守って捕獲することができ(同法8条1項2号)、捕獲後、食べることも禁じられていません。そのため、今では多くないでしょうが、国産のスズメやハトを料理として出す店があってもおかしくありません。また、輸入したハトやスズメを提供することは禁じられていないので、お店で出すことが可能です」

Q.カラスやハトの被害に悩み、駆除を考えた場合、どのようにすればよいのでしょうか。

佐藤さん「まずは、お住まいの自治体の環境保全などを担当する部署に相談しましょう。例えば、巣の除去にしても、卵があったり、ヒナがいたりすると許可が必要になるなど、いろいろなルールが存在するため、実際に駆除する前に自治体に相談すると安心です。

自治体からのアドバイスを受けて、自力で駆除できる場合には、市販のグッズなどを使いながら対処して構いません。自力で駆除するのが難しい場合は、費用はかかりますが専門業者に依頼しましょう。自治体によっては、一定の条件で補助制度を設けていることもありますので、活用するとよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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