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図書館の本を“借りパク”している人たちの声「返すべきか悩む」「犯罪になる?」、法的には

物品を借りたまま返却しない、いわゆる「借りパク」。SNS上では「実は図書館の本を借りパクしている」という告白が多数投稿されています。マナー上、問題があるのは当然ですが法的問題はないのでしょうか。

図書館の本を借りパク、法的問題は?
図書館の本を借りパク、法的問題は?

 物品を借りたまま返却しない、いわゆる「借りパク」。特に、図書館の本を借りパクしてしまった経験がある人は少なくないようです。SNS上でも「部屋を掃除していたら、高校の図書室で借りた本が出てきた」「地元の図書館で借りた本を返すのを忘れたまま年月が経過してしまった」などの体験談や、「卒業してからかなりたつけど今さら返しに行ってもいいのか悩む」「手元に置いたままだと犯罪になるのかな」など、さまざまな投稿が見られますが、図書館の本の「借りパク」にはどのような法的問題があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

取得時効成立せず、横領罪や損害賠償責任の可能性も

Q.図書館の本を借りたまま返却しない行為に何らかの法的問題はあるのでしょうか。

牧野さん「まず、長期間他人の物を占有していれば、法的に『自分の物になるかどうか』という問題(いわゆる『取得時効』の問題)があります。永続した事実状態を尊重する目的で時効制度が設けられているため、自分の所有であると信じて占有していれば、時効により所有権を取得できます。しかし、このケースでは、占有を始めた時に『借りた物』であるので、残念ながら民法の取得時効は適用されません。取得時効が成立していなければ『他人の物』ですので、単純横領罪(刑法252条)の『自己の占有する他人の物を横領した者』に該当し、5年以下の懲役に処せられる可能性があります」

Q.何度も催促があったにもかかわらず、意図的に無視していた場合と、単純に忘れていた場合で違いはありますか。

牧野さん「『意図的に無視していた』場合は、自分の物として領得する意思があるとされ、単純横領罪が成立する可能性があります。単純に忘れていてすぐに返却した場合には、同罪には該当しないでしょう。ただ、返却までに図書館側に発生した損害を賠償する責任が民事上発生するでしょう(民法709条)」

Q.借りパクしていた期間は罰則に影響するのでしょうか。

牧野さん「自分の物として領得すれば、その時点で単純横領罪が成立する可能性がありますが、原則として期間は関係ありません。ただ、民事責任については、返却までの期間が長いと図書館側に発生した損害の額が大きくなる可能性があるでしょう」

Q.長期間借りパクをしている間に本が劣化してしまった場合、どのような法的責任が発生しますか。

牧野さん「本を傷めたり、本に書き込みをしたりする行為は器物損壊罪(刑法第261条)に該当する可能性があり、その場合、3年以下の懲役または30万円以下の罰金、もしくは科料に処せられます。このケースにおいても、図書館が損害をこうむれば、民法709条の不法行為に基づき損害賠償請求をされる可能性があります」

(ライフスタイルチーム)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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