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「カビか農薬と思っていた」人も…ブドウの表面を覆う「白い粉」の正体は? 管理栄養士に聞く

「ブドウ」には、果実の表面に白っぽい粉のようなものが付いていることがあります。この「白い粉」の正体について、管理栄養士に聞いてみました。

「表面が白いと不安」の声も
「表面が白いと不安」の声も

 毎年7月ごろから店頭に並び始める「ブドウ」は、果実の表面が白っぽくなっているものを見かけることがあります。この「白い粉のようなもの」が付いているブドウは「おいしい」とされ、「いつも、白っぽくなっているものを選ぶ」という声がある一方で、「カビか農薬だと思って必死に洗っていた」「正直ちょっと不安」「風味への影響はないの?」など、安全性や風味を疑問視する声もあるようです。

 ブドウの表面に付いていることのある「白い粉」の“正体”とは何なのでしょうか。管理栄養士の岸百合恵さんに聞きました。

よく熟した“食べ頃の印”

Q.ブドウの表面にみられることがある「白い粉のようなもの」の正体とは。

岸さん「『ブルーム』と呼ばれる、果実に含まれる脂質から作られた天然のろう物質が表面に出てきたものです。果粉(かふん)とも呼ばれ、ブドウ以外ではリンゴ、キュウリ、スイカ、プラム、ブルーベリー、ブロッコリーなどにも現れます」

Q.なぜ、ブルームが出てくるのですか。

岸さん「植物の表面には、『クチクラ』という、植物自体の脂質から作られた皮膜があります。クチクラの英語読みは『キューティクル』で、生物の体表を覆う丈夫な膜のことをいいます。クチクラは、雨や朝露などの水分をはじいて細菌の繁殖や病気を予防したり、水分の蒸発を防いで新鮮さを保ったりする働きがあります。また、これにより、温度や湿度など環境の変化にも対応できるようになっています。

クチクラは『クチン』という成分で構成されており、水分や脂質が移動できる微細な隙間があります。クチクラの内部にある『ろう物質』が多く分泌されると、無数の針状になって隙間から表面に押し出され、ブルームが作られます。例えばリンゴの場合、皮にブルームが出るものとテカテカと光っているものとがありますが、ろう物質が針状にならずに溶け出すとテカテカして見えたり、ベタついたりしてきます。

ちなみに、ろう物質の分泌が少ないものもクチクラ自体に守られているので、水分を弾いたり病気を予防したりするなどの防御機能は問題ありません」

Q.ブルームが出ることによって、風味・栄養に何らかの影響や変化はありますか。

岸さん「粉が吹いているのは新鮮な証拠で、しっかりブルームが出ているものは、よく熟した“食べ頃の印”でもあります。ブルームは日がたつことで少しずつ失われていき、鮮度も落ちます。ブルームの出ているものは、丁寧に扱われて人の手が触れる機会が少なかった証しでもあるため、市場価値が高まるようです。果実をしっかり守るブルームが全体を覆っているものはみずみずしく、風味や栄養もよい状態だといえます」

Q.おいしいブドウを見分けるポイントは。

岸さん「粒がそろって、果実に張りがあるものを選びましょう。ブドウの完熟度は色の濃さで分かるので、巨峰なら黒色、マスカットなら緑色の濃いもの、シャインマスカットは、黄色に近い色のものを選びましょう。全体に品種それぞれの色が満遍なく出ていて、ブルームが全体的に濃く厚く、しっかり出ているものがよいです。

また、太陽の光が粒全体に当たり、甘くなりやすいブドウは、『大き過ぎない粒』で『粒同士の間隔がやや空いている』ものです。収穫時は枝が緑ですが、時間がたつと茶色くなるので、枝の色もチェックしてみてください」

Q.ブドウの適切な保存方法を教えてください。

岸さん「ブドウは非常にデリケートな果物なので、すぐ冷蔵庫に入れましょう。一房ずつポリ袋か新聞紙で包み、野菜室で保存すると5日程度は保存できます。さらに保存状態を高めるためには、房から5ミリ程度の枝をはさみで切り離し、野菜室で保存しましょう。

果実を切り離すことで、枝に水分や栄養を持っていかれるのを防げます。また、少し枝を残しておくことで、付け根の部分が悪くなりにくくなります。この方法で、1週間程度保存できます。なお、ブルームはブドウを乾燥から守ってくれるので、洗わずに保存しましょう」

Q.ブルームのことをホコリやカビ、農薬などと勘違いし、口にすることを不安に思うなど「誤解」している人も少なくないようです。

岸さん「先述の通り、ブルームは果実や野菜の中に含まれる脂質から作られた『天然の皮膜』です。鮮度のよさを示す物質でもあるので、安心して召し上がってください。ブルームがしっかり出ているものは、皮が薄く、みずみずしいものが多いです。さっと水洗いすると水をはじきますが、無理に洗おうとしなくても、そのまま食べることができます。

ブルームが誤解されたことがきっかけで品種改良された野菜に、キュウリがあります。ブルームがないキュウリは皮がしっかりしていて身が柔らかいものが多く、ブルームが出ているものは皮が薄くて実がシャキシャキしています。好みで選ぶとよいですが、最近、店頭に並んでいるキュウリには、ほとんど付いていないようです」

(オトナンサー編集部)

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岸百合恵(きし・ゆりえ)

プロボクサー、管理栄養士、日本糖尿病療養指導士

病院食の管理・調理業務や企業での特定保健指導を経て、生活習慣病診療を専門とするクリニックにおいて5年間、栄養指導を実施。アスリートとしても夢を追い掛け、2017年に日本ボクシングコミッション(JBC)のプロテストに挑戦し、一発合格。「闘う管理栄養士」として、チャンピオンを目指して日々トレーニングに励みながら、ボディーメークや健康管理の指導を行う。現在は、スポーツ・睡眠歯科分野の診療を行う歯科医院で、アスリートへの食事指導や、一般患者へのダイエット、フレイル・サルコペニア予防の指導を行う他、内科クリニックで生活習慣病患者に対する食事指導を行っている。

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