遺言で大トラブルに! 遺族がもめやすい「遺言書」とは? 弁護士に聞いた
皮肉にも…「遺言書がある」ことでトラブルになるケースとは?
Q.遺言書は「残された家族がもめないため」に作られるイメージがありますが、皮肉にも「遺言書があることによってトラブルに発展した」ケースも実際にあるのでしょうか。
森田さん「あります。典型例としては、遺言の内容が相続人の一部にとって極端に有利で、他の相続人にとって極端に不利な場合です。最も分かりやすいのは、『全ての遺産を◯◯(人名)に相続させる』とだけ記載された遺言です。これは、法定相続分を完全に無視し、またそのような結論を取る理由すら記載していない遺言であって、冷遇された相続人が不服を感じるのもやむを得ません。この場合の多くは、遺言によって冷遇された相続人が、厚遇された相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことが考えられます。
また、そもそも、遺言の有効性自体が争われる可能性もあります。典型的な例は、偽造(子の一人が親の名前を偽り、自分に有利な遺言書を作成しているような場合)や、認知症などにより、遺言書の記載内容を遺言者自身が理解できていないような状況が主張される場合です」
Q.残された家族が「もめやすい」「もめにくい」のは、どんな書き方や内容の遺言書だと思われますか。
森田さん「遺言書の中に、結論だけではなく、そのように定めた経緯や理由を記載することが適切です。例えば、相続分に差を設ける場合や、特定の遺産について相続人を指定する場合、『なぜそのような判断に至ったのか』を記載することで、法定相続分未満の取り分しか得られなかった相続人や、欲しがっていた遺産を相続できなかった相続人にとっても、遺言者の思いを理解し、受け入れるためのきっかけとなります。
また、複数の子に対して生前にしてあげられたことに差があった場合、何も手を打たなければ、遺産分割の場面で、不遇を主張する子が優遇されていた子に対し、特別受益を主張して遺産を用いた清算を求めて激しく争うケースがしばしばみられます。親の目から見て、子の一部を優遇していたことに何かしらの理由があり、遺産分割での清算が望ましくないと考える場合には、遺言の中に『持戻し免除』と呼ばれる条項を入れることで、特別受益を理由とする紛争の発生を防ぐことができます」
Q.遺言書がきっかけとなってトラブルに発展しないために、作成時に気を付けた方がよいこととは。
森田さん「まずは、遺言を作成した経緯について、相続人に不信を抱かせる事態を避けるべきです。紛争予防の点でいえば、推定相続人(相続開始時に法定相続人の地位に立つ人)に対して、遺言を作成した旨や遺言書を作成しようと考えた経緯を伝えておくべきです。この際、遺言内容自体を推定相続人や、推定相続人と関係がある人物に伝えることは避けた方が望ましいでしょう。推定相続人の立場からすれば、遺言内容を知りたがるのは自然ですが、これを伝えた場合、『冷遇された』と考えた推定相続人が、遺言者に対して報復的に冷たい態度を取ったり、作成済みの遺言を撤回させ、新たに自身に有利な遺言をさせようと不当な工作を行ったりするなど、新たなトラブルの引き金になりかねないからです。
遺言の方式としては、費用が許す限り、先述した(2)の『公正証書遺言』が望ましいでしょう。偽造や改ざんを防ぎ、遺言の効力を維持できる可能性が高く、遺言者の意思を相続に反映させられる手段といえるためです。ただし、公証人は遺言内容自体についての相談に乗ることはありません。不動産を保有しているなど、一定の財産を所有している場合には、遺言内容をどうすべきかについて、相続に詳しい弁護士に事前に相談を行い、その援助を受けながら遺言内容を確定して草案を作成し、公証役場に持参して、公正証書遺言の方式で保管することが最善でしょう」
(オトナンサー編集部)
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