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人と接するのが苦手な自閉症の息子 妹との「きょうだいげんか」で見えた成長の証し

障害がある息子ときょうだい児の娘の「きょうだいげんか」を通じて感じた、子どもたちの成長について、2人を育てるライターが解説します。

おもちゃの取り合いで、きょうだいけんかをすることが多くなった息子と娘(筆者作)
おもちゃの取り合いで、きょうだいけんかをすることが多くなった息子と娘(筆者作)

 子どもを育てている親にとって、子ども同士のきょうだいげんかは頭の痛い問題です。でも、障害がある息子ときょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の娘を育てる筆者にとっては、きょうだいげんかにも一味違った困りごとや、成長を感じるポイントがありました。

話し合いで解決することが難しい

「貸ーしーて!」

 夕飯の支度に追われ、バタバタしていた筆者の耳に、娘の声が飛び込んできました。急いで様子を見に行くと、息子と娘がにらみ合って何かを取り合っています。

 きょうだいげんかです。

 歯医者で頑張ったごほうびとして息子がもらった、猫の形の消しゴム。息子はそれを手放さずに大事に持っていたのですが、それを見た娘がどうしても触りたくなり、「貸ーしーて!」と息子に言っていたのでした。

 しかし、息子はかたくなに手放しません。変わらない状況に、「貸ーしーてって言ってるのに!」と、娘の怒りはヒートアップしていきました。ただ、知的障害があって話すことができない息子は、そもそも「いいよ」も「嫌だよ」も言えないのです。

 けんかをしても、息子と娘は言葉を使った話し合いで解決することができません。これが、自閉症と知的障害がある息子と、きょうだい児の娘のきょうだいげんかの、とてももどかしいところだと感じます。

 言葉で自分の言い分を筆者に伝えてくる娘と、ただ涙を流して悲しそうにたたずむ息子。それでも、息子の手には猫の消しゴムが固く握りしめられており、けんかの落としどころが見つかりません。このような状況が、わが家では日常茶飯事です。

 しかし、今でこそけんかが多い2人も、最初からこうではありませんでした。

妹の存在、認めなかった息子

 娘が生まれたとき、息子は祖父母とともに病院の分娩(ぶんべん)室に案内されました。しかし、息子はかたくなに分娩室に入ろうとせず、入り口で大きく取り乱して泣き出したのです。その後、娘と筆者の入院中も、息子はどんなに促されても新生児室に近づこうとしませんでした。

 さらには、娘が家で暮らすようになってからも、ベビーベッドがある部屋に入ろうともしなかったのです。何日かかけて、ようやく息子は娘のいる部屋に入ることができるようになり、少しずつベッドの近くに寄れるようになっていきました。

 このような流れだったので、息子が娘の顔をちゃんと見たのは、娘が生まれてから随分たってからのような気がします。

 息子は、ある日突然現れた「妹」の存在をかたくなに認めようとしないように見えました。その後、娘の存在に慣れてからも、息子にとって娘は、いつもベビーベッドか抱っこひもの中にいる、母親の付属品のようなイメージだったのかもしれません。娘に対して拒否感を示さなくなっても、息子は娘に対してそれほど積極的に関わろうとはしませんでした。

一緒に過ごす中で2人の関係性に変化が

 2人の関係性が変わったのは、コロナ禍での1回目の緊急事態宣言(2020年4月~5月)の頃でした。息子の幼稚園も療育施設も、娘の保育園も休みになり、24時間常に家の中で一緒に過ごした2人は、急に距離を詰めていきました。

 当時、実年齢は5歳だけれど発達年齢は1歳半程度だった息子と、実年齢が1歳だった娘です。一緒に遊ぶことは難しいようでしたが、ふと見ると2人でくっついて座っていたり、何となくお互いにそばにいたりするようになりました。

 息子は人との距離感が遠く、あまり自分から関わろうとしないタイプです。それに対して、娘は距離感が近く、社交的で好奇心も旺盛なタイプなので、積極的に息子に絡もうとしていました。そういった娘の性格もあってか、流されるままに息子も娘と距離感を詰めていけたのかもしれません。

 しかし、距離が近づけばトラブルも起きるようになります。そのころから、2人の間にけんかが勃発するようになりました。

 けんかの原因は、おもちゃの取り合いがほとんどです。「息子が遊んでいる物を娘が取る」「娘が遊んでいる物を息子が欲しがる、その結果、取り合いのけんかになる」といったものでした。

 息子は、自分も子どもでありながら、ずっと子どもが苦手でした。そのため、他の子どもとあまり深く関わりたくないのか、たとえ持っているおもちゃなどを取られても取り返しにはいかず、もめるよりは諦めることを選ぶ子だったのです。ですから、息子が外で友達とけんかになることは、これまで一度もありませんでした。

 それが、娘を相手にして初めて、「取り返そう」と向かっていったのです。これは筆者にとって、衝撃的な出来事でした。

 娘はそもそも最初から我が強く「取られたら取り返す、絶対に譲らない」というスタンスです。ところが息子が諦めずに反撃したことで、娘の思い通りにいかなくなりました。これが、終わらないきょうだいげんかの始まりでした。

「けんか」というと、ネガティブなことに捉えられがちかもしれません。しかし、自閉症で知的障害があり、「人に対する興味が極端に薄い」と言われてきた息子に関しては、筆者は少し違う印象を持ちました。

 息子がけんかをするほどの興味関心を人に対して持てたということ、それだけ人と深く関わろうと思えたことは、非常に大きな「成長」だと感じたのです。

 だからこそ、言葉を話さないなりに怒りをあらわにし、自分の気持ちを曲げずに娘と真っ向からぶつかってけんかをする息子を見て、まず「成長したな」と思いました。

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べっこうあめアマミ

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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