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転居費用の自己負担理由に、従業員は転勤を拒否できる? 会社が全額負担する義務は?

引っ越しを伴う転勤を命じられた従業員が、転居費用の自己負担を理由に、転勤を拒否することはできるのでしょうか。弁護士に聞きました。

引っ越し費用の負担を理由に、転勤を拒否できる?
引っ越し費用の負担を理由に、転勤を拒否できる?

 コロナ禍によるリモートワークの普及などで減りつつあるとはいえ、新年度に向け、引っ越しを伴う転勤が決まった人もいると思います。その際、転居に必要な費用を従業員に負担させる企業もあるようですが、転勤を命じた会社側が、転居費用を全額負担する義務はないのでしょうか。また、自己負担を理由に、従業員が転勤を拒否することはできるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

負担割合は労使間の取り決め

Q.企業が従業員を転勤させる場合、引っ越し代や交通費、下見にかかる費用などの転居費用を全額負担する義務はないのでしょうか。

牧野さん「転居を伴う転勤や異動を行う際の費用負担については、労使間で自由に取り決めることができ、それを縛る法律はありません。そのため、負担の割合は企業によって異なります。全額会社負担にすることもできます」

Q.転居費用について、企業が就業規則などで定めているケースが多いのでしょうか。

牧野さん「通常は会社の就業規則や労働協約で定めています。就業規則などに違反している場合、会社へ請求することができます。会社都合の転勤や異動に伴う転居の場合には、転居費用の一部あるいは全額を負担する会社が多いと思います」

Q.自己負担額があまりにも多いと感じた場合、従業員は転勤を拒否、あるいは延期することはできるのでしょうか。拒否したことで、降格処分や給与の減額、解雇となった場合、従業員は法的手段を取ることができますか。

牧野さん「社員の自己負担があまりに高額になる場合は、会社と話し合う余地はあるでしょう。転勤を拒否したことで解雇となった場合には、(1)転勤命令に業務上の必要性がある(2)転勤が労働者に与える家庭生活上の不利益は通常甘受すべき程度のものと判断され、懲戒解雇が有効とされた事例があります」

Q.転居に関する就業規則を設けていない企業に所属している場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

牧野さん「就業規則などで転居費用負担の規定がない場合、法的手段を取ることは難しいですが、自分の会社の前例や慣習となっている取り扱いなどを参考にして、会社と交渉できる余地はあります」

Q.自衛官などの国家公務員が転勤する際、引っ越し費用などのかなりの部分を個人が負担するケースもあるようです。国は全額負担しないのでしょうか。

牧野さん「国家公務員が人事異動に基づいて転居する場合、引っ越し手当(赴任旅費)が総額で支払われますが、距離などによってその額は異なり、その『総額』を超えた場合は個人負担が発生する場合もあります」

Q.公務員が自己負担を理由に転勤を拒否することは可能なのでしょうか。拒否したことで不利益が出た場合、法的手段を取ることはできますか。

牧野さん「公務員の転勤は法律で定められているため、原則として転勤を拒否することはできません。転勤命令を拒否すると業務命令違反になり、懲戒処分(停職や減給、解雇処分)を受ける可能性があります。『職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、かつ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない』(地方公務員法32条)とあります。

ただし、例外として、高齢者を一人きりにしてしまうなど転勤によって家族に極端な負担をかける場合、転勤命令を拒否できる可能性があります」

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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