子どもを乗せた自転車が歩行者に衝突…自転車の親子がけが→歩行者が悪い?
子どもを乗せた自転車と歩行者がぶつかって、自転車の親子がけがをした場合、歩行者が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。

朝の通勤・通学の時間帯や夕方の帰宅時間帯、子どもを乗せた自転車が猛スピードで歩道や車道を走り抜ける姿をよく見かけます。「保育園に遅れてしまう」「早く家に帰りたい」などと急ぐ気持ちは分かりますが、歩行者や車と接触する可能性もあり、大変危険です。
もし、子どもを乗せた自転車と歩行者がぶつかって、けが人が出た場合、どちらの責任になるのでしょうか。また、歩行者にけがはなく、自転車の親子がけがをした場合、歩行者が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
赤信号無視なら歩行者の責任も
Q.そもそも、自転車と歩行者の衝突事故があった場合、自転車側と歩行者側のどちらの責任になることが多いのでしょうか。
佐藤さん「一般的に自転車側の責任が、より重く認められます。なぜなら、自転車は道路交通法上、軽車両とされており(同法2条11号)、歩道と車道の区別のある道路において、原則、車道を通行しなければならないため(同法17条1項)、歩道上で歩行者と接触事故を起こせば、自転車側の過失(不注意の程度)が大きいと判断されるからです」
Q.子どもを乗せた自転車であっても、道路交通法上、車道を走らなければならないのでしょうか。自転車が例外的に歩道を走ってもよいケースがあれば、教えてください。
佐藤さん「子どもを乗せた自転車も原則として、車道を走らなければなりません。自転車が例外的に歩道を走れるのは次のケースです。
・道路標識などにより、歩道を通行することができるとされている場合(同法63条の4第1項1号)
・自転車の運転者が13歳未満または70歳以上の者や、車道を通行することに支障を生ずる程度の身体に障害を有する者の場合(同法63条の4第1項2号、道路交通法施行令26条)
・車道や交通の状況に照らして、自転車の通行の安全確保のため、歩道を通行することがやむを得ない場合(同法63条の4第1項3号)
『やむを得ない場合』とは例えば、車道が狭く、自動車の交通量が著しく多い場合や、道路工事や駐車車両のせいで車道を通行することが困難な場合などです。これらの例外に当てはまっていれば、子どもを乗せた自転車も歩道を走ることができます。なお、歩道を走れる場合であっても、自転車は車道寄りを徐行しなければならず、歩行者の通行を妨げるときは一時停止しなければなりません(同法63条の4第2項)」
Q.子どもを乗せた自転車と歩行者が衝突して、歩行者がけが、または死亡した場合、自転車を運転していた人はどのような法的責任を問われるのでしょうか。一方、歩行者にけがはなく、自転車側の親子がけが、または死亡した場合、歩行者が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「子どもを乗せた自転車と歩行者が衝突し、歩行者がけがを負ったり、死亡したりした場合、自転車を運転していた人は民事上、損害賠償責任を問われる可能性があります。その際、過失割合(不注意の程度の割合)が問題となり、歩行者側にも不注意が認められれば、賠償金額が下がることになります。その他、自転車を運転していた人は過失傷害罪(刑法209条)や過失致死罪(同法210条)、重過失致死傷罪(同法211条後段)といった刑事上の責任を問われることもあります。
一方、歩行者にけがはなく、自転車側の親子がけがを負ったり、死亡したりしたケースで歩行者側の過失が大きい場合、歩行者側が法的責任を問われる可能性もあります。例えば、歩行者が赤信号を無視して車道を横断し、自転車と衝突したようなケースでは、自転車の運転者は歩行者が車道に現れることを予測できず、歩行者側の賠償責任が認められることがあります。
ただし、先述のように、歩道上で自転車と歩行者が衝突したケースで、歩行者側が法的責任を問われることはあまり考えられないでしょう」
Q.もし、子どもを乗せた自転車と歩行者の衝突事故が発生した場合、当事者はどのように対処すべきなのでしょうか。また、事故があったにもかかわらず、自転車の親子、または歩行者のいずれかがその場から立ち去った場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「自転車の運転者は交通事故があった場合、直ちに自転車の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止するなど必要な措置を講じなければなりません。また、自転車の運転者は警察官に、交通事故が発生した日時や場所、死傷者の数、負傷者の負傷の程度などを報告する義務があります(道路交通法72条)。
そのため、自転車の親子が警察官への報告義務に違反し、その場から立ち去った場合、ひき逃げとなり、刑事責任を問われる可能性があります。その場合、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されることもあります(同法119条1項10号)。一方、歩行者には、法律でこうした義務が定められているわけではありませんが、自転車の親子が負傷しているような場合は救護すべきです。
また、後日、損害賠償金について自転車の運転者や保険会社と話し合うこともあるため、警察にも連絡すべきでしょう。警察を呼べば、事故の状況を客観的に書面に残してくれますし、交通事故証明書も作成してもらえるため、後々、交渉したり、保険金を請求したりする際に役立ちます」
Q.「原則として、車道を走らなければいけない」ということ以外で、子どもを乗せて自転車を運転する人が法律上、守るべきルールがあれば、教えてください。
佐藤さん「自転車を運転する人が守るべきルールは法律などによって、いろいろと定められています。例えば、自転車は原則、車道の左側端を通行することとされています(道路交通法17条、18条)。また、一時停止場所での安全確認(同法43条)や片手運転の禁止(同法71条6号)など、さまざまなルールがあります。このほか、自転車保険への加入を義務付けている都道府県も増えています。
2人乗りは原則禁止されていますが、例外として、一定の場合、子どもを乗せて自転車を運転することが認められています。各都道府県の道路交通規則(名称は都道府県ごとに異なる)では、一般的に、幼児をひもなどで確実に背負って運転することは認め、抱っこひもを使用して、前抱っこの状態で自転車に乗ることは認めていません。
前抱っこの場合、ハンドル操作の妨げになるなど安全確保が難しくなるからです。背負っていると、子どもの様子が分かりにくいため、前抱っこしたいと思う保護者も少なくありませんが、子どもの安全を守るためにも、自転車走行のルールを守って運転することが大切でしょう」
Q.子どもを乗せた自転車と歩行者の事故に関する事例、判例について教えてください。
佐藤さん「2020年11月、神奈川県鎌倉市で、女性が息子を後ろに乗せた状態で電動アシスト自転車を運転していたところ、歩行者にぶつかり、約7カ月の重傷を負わせた事故が発生しました。この事故では、女性が息子に気を取られ、直前でブレーキをかけたが間に合わなかったそうです。女性は重過失傷害罪に問われ、有罪判決を受けています」
(オトナンサー編集部)
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