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チューペット、あんずボー…夏の駄菓子屋を彩った、懐かしき「アイス」の世界

1960~70年代のお菓子やおもちゃ、キッズカルチャーなどの話題をテーマに取材、執筆活動を行う筆者が、昔懐かしい駄菓子の世界を紹介します。

チューペットは前田産業が1975年に発売。真ん中からポキリと折れるようになっているのが特徴だった
チューペットは前田産業が1975年に発売。真ん中からポキリと折れるようになっているのが特徴だった

 夏の定番おやつといえば、やはりアイスです。昭和の駄菓子屋さんには、たいてい保冷庫が置いてあり、夏になると各社のさまざまなアイスが販売されていました。

安さが魅力「チューチューアイス」

 しかし、当時一般的に人気のあった「森永バニラエイト」や「雪印バニラブルー」など、本格的なアイスは、駄菓子屋さん通いをしている子どもたちには高根の花。カップのアイスは安くても1つ50円。高いものになると100円の値段が付けられています。これでは「全財産」をはたかないと買えません。

 現在も売られている井村屋の「メロンボール」(メロンの形のプラスチック容器に入ったシャーベット)や、ピンクレディーのCMで大ヒットした高級アイス「宝石箱」(雪印乳業=現・雪印メグミルク)などは、親に買ってもらわなければ口にできないぜいたく品でした。

 駄菓子屋さんにたむろする子どもたちが買うアイスは、そうした本格アイスではなく、もっぱら、甘くて色のついた水を凍らせただけのアイス。その代表が、いわゆるチューチューアイスでした。ビニールのチューブをチュウチュウと吸って食べるアイスで、各社から販売されていました。

 現在でもスーパーのお徳用アイスとしておなじみですが、当時はこれが1本20円ほどで売られていました。中でも有名だったのが、前田産業の「チューペット」。チューチューアイスの代表格でしたが、残念ながら10年ほど前に生産が終了してしまいました。

想定外のアイデアから誕生した「駄菓子アイス」

あんずボーは東京駄菓子を代表するロングセラーの一つ。現在も当時と同じく1本20円前後で売られる
あんずボーは東京駄菓子を代表するロングセラーの一つ。現在も当時と同じく1本20円前後で売られる

 駄菓子屋さんならではのアイスといえば(いや、本来はアイスではないのですが)、今でも人気駄菓子として流通している「あんずボー」があります。東京都台東区の菓子メーカー、港常(みなつね)が1970年代中頃に発売した商品。スティック状のビニール容器にシロップ漬けのあんずを入れたお菓子で、これも1970年代当時は1本20円で販売されていました。

 もともと常温のまま食べるものとして開発されたのですが、どこかの駄菓子屋さんがこれを凍らせ、アイスのような形で売ることを思いつきます(この店主は天才だと思います!)。これが口コミで各地に広がり、「冷凍あんずボー」は定番の「駄菓子アイス」になってしまいました。メーカーとしてはこういう食べ方はまったく想定していなかったので、ひどく驚いたそうです。

「あんずボー」については、ちょっと面白い話があります。通常、小売店のアイス保冷庫は、大手アイスメーカーが店に貸し出す備品です。アイスの販売にしか使ってはいけないという原則があるそうで、ここに本来はアイスではない「あんずボー」などの駄菓子類を勝手に入れると、メーカーの営業さんに怒られてしまうこともあったそうです。

 そこで、駄菓子屋さんの店主は、営業が回ってきそうな日になると、そそくさと「あんずボー」を保冷庫から出し、帰るとまた入れるといった形で「摘発」(?)を逃れていたといいます。

最安値を実現した大ヒット商品

ホームランバーは現在、さまざまなフレーバーが販売されているが、1970年代はバニラ、イチゴ、チョコの3タイプだった
ホームランバーは現在、さまざまなフレーバーが販売されているが、1970年代はバニラ、イチゴ、チョコの3タイプだった

「チューペット」も「あんずボー」も20円でしたが、この20円という価格は、当時の小さな子どもたちにとっては本当にありがたいものでした。たいていの子どもが駄菓子屋さんで一度に使える金額は、だいたい50円、多くても100円程度。いくつか好きな駄菓子を買って、そのおつりで買えるのが20円アイスだったわけです。

 当然、20円で買えるアイスは限られ、先ほども書いたようにバニラアイスなどの本格アイスは縁遠いものでした。しかし、一つだけ例外がありました。筆者世代には説明不要な超定番のヒット商品、名糖(メイトー)ブランドの「ホームランバー」です。

 1955年に発売された商品(当初は別の商品名)で、開発テーマは「本格的アイスクリームを可能な限り安く!」というものでした。カップではなく、安価なアイスと同じようにバータイプ(棒付きアイス)にすることでコストダウンを図ったのです。当時、アイスクリームを容器に入れず、棒を刺して売るなど不可能だと考えられていたのですが、名糖は特別な機械を用意して実現しました。

 発売時の価格は、なんとたったの10円! 筆者の子ども時代は1本20円でしたが、それでも本格アイスとしては破格の安さでした。味にもチープさはまったくなくて、50円以上のカップアイスと比べても遜色がありません。しかも、この商品は「当たり付き」。食べ終わった棒に「ホームラン」の刻印があれば、もう一本もらえます。当時の「ホームラン」が出たときのうれしさは、今でも覚えています。

「ホームランバー」は発売から70年近く経過した現在も現役商品ですが、本当に当時の「子どもたちのニーズ」を考え抜き、それを満たすための数々の工夫によって誕生した傑作商品だと思います。

(昭和レトロ系ライター 初見健一)

初見健一(はつみ・けんいち)

昭和レトロ系ライター

1967年、東京生まれ。主に1960~70年代のお菓子やおもちゃ、キッズカルチャーについての話題をテーマに取材、執筆活動を行う。東京新聞・中日新聞サンデー版に「初見健一のこれなんだっけ?」、「月刊ムー」に「昭和こどもオカルト回顧録」などを連載中。主な著書に文庫「まだある。」シリーズのほか、「まだある。こども歳時記」「ぼくらの昭和オカルト大百科」「昭和こども図書館」「昭和こどもゴールデン映画劇場」(以上、大空出版)、「昭和ちびっこ未来画報」「昭和ちびっこ怪奇画報」(以上、青幻舎)など。

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