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聖火ランナー辞退、世論は中止・再延期 東京五輪の今夏開催、意味はある?

東京五輪の聖火リレーがスタートしましたが、海外からの一般客が見送りとなり、世論調査でも厳しい声が出ています。この状況で五輪を今夏、開催する意義とは何なのでしょうか。

長野市で聖火ランナーを務めた荻原健司さん(2021年4月、時事、代表撮影)
長野市で聖火ランナーを務めた荻原健司さん(2021年4月、時事、代表撮影)

 東京五輪の聖火リレーが3月25日にスタートしましたが、新型コロナウイルス対策で観衆が制限されたり、辞退するランナーが相次いだりと、いまひとつ盛り上がりに欠けています。海外からの一般客も見送りとなり、さらに、国内客も無観客になる可能性や中止の可能性もまだ消えていません。世論調査でも「中止」「再延期」を求める声が「今年夏に開催」を上回っています。

 この状況で五輪を今夏、開催する意義とは何なのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

「開催する気満々」メッセージ

Q.この夏の五輪開催を不安視する声もある中、聖火リレーがスタートしました。聖火リレーを行う意義とは。

江頭さん「オリンピックを単に世界一のアスリートを決める大会とするなら、聖火リレーは必要不可欠なものではありません。しかし、オリンピックを開催するための資金集めの意味は大きいでしょう。スポンサーがランナーを一般募集したのはご存じの通りです。沿道に大勢の人が集まることを想定して、国際オリンピック委員会(IOC)などに協賛金(広告料)を支払っています。

日本での聖火リレー開催は前回東京大会の成功体験が大きいと思われます。1964年の東京オリンピックでは聖火ランナーが日本全国を走ることで、国民がオリンピックに興味を持ち、機運が急激に上がりました。今回、今のところ、国民からの指示は高くありませんので、『聖火ランナーが国内を走れば機運が一気に高まる』と信じている関係者がいるのでしょう。

聖火リレーは1936年のベルリンオリンピックから始まりました。第2次世界大戦直前で、ヒトラー率いるナチスを世界に認知させるため、プロパガンダ目的に悪用されたオリンピックで、世界初の試みとして、聖火リレーや記録映画制作が行われました。開戦後、ドイツが聖火ランナーが走った道をなぞって逆走するように進軍したとされます。オリンピック精神と聖火リレーとは直接の関係はありません」

Q.今回の聖火リレーは、新型コロナウイルス対策で観衆の人数が制限されたり、沿道での見方に制限が加えられたりしています。「五輪への機運を盛り上げる」意図とは逆のように思えます。

江頭さん「極論になりますが聖火リレーが中止になったら、『2020TOKYOそのものが中止になるかも?』という雰囲気が生まれるでしょう。関係者としてはこれは絶対に避けなくてはなりません。それが制限付きでも実施する第一の理由です。第二に、機運を盛り上げる上で逆効果になったとしても、IOCとJOC(日本オリンピック委員会)、そして、東京都が『感染症に負けず、2020TOKYOを開催する気が満々である』ことは日本中に伝わります。

第三に、オリンピック本番段階でも、コロナ禍での強行開催には批判が起きると思われます。その際に日本国民がどんな批判をし、メディアがどこまで批判的になるのか、聖火リレーの実施で『炎上度合い』を予想することができます。聖火リレーへの批判が強ければ、『観客数を減少させる』『無観客にする』といった意思決定に影響すると思います。

聖火リレーでプラスの機運は高まらないかもしれませんが、それでも、2020TOKYOを開催する準備を止めないことが重要なのです」

Q.東京五輪本番については、海外一般客の受け入れが見送りとなりました。この意味は。

江頭さん「『2020TOKYOを開催するためにやり方は選ばない』ということでしょう。IOCはどんな形になっても開催しなくてはなりません。もし中止になったら、世界中と契約しているテレビ放映権料が入らず、IOC自体の財政が逼迫(ひっぱく)するからです。

また、IOCは大会が中止になり、東京都に大きな負の遺産をもたらすわけにはいきません。五輪開催の立候補都市が減少しています。次回2024年はパリ、2028年はロサンゼルスですが、この2都市は2024年開催に向けて立候補し、他に立候補都市がなかったので、2都市で分け合う形になりました。

そんな状況の中、GDP世界3位の日本の首都・東京開催が感染症で中止になり、東京都と日本政府に大きな損害を残したら、2032年の開催地立候補都市がなくなる可能性も否定できません。コロナ禍で2020TOKYOを開催する優先順位としては、

(1)予定通りの観客数(国内、海外とも)で開催
(2)海外からの観客断念
(3)日本国内の観客を会場収容人数の50%までに制限
(4)緊急事態宣言時の1イベント5000人の基準に合わせる
(5)無観客で開催
(6)来日アスリートに過剰な感染対策を求める
(7)開催断念

という順番と思われます。現在はこの1枚目のカードを切ったにすぎません。今後、世界の新型コロナの状況に伴って、さまざまなカードを見せてくるでしょう」

Q.無観客の場合、東京で五輪を開催する意味はあるのでしょうか。

江頭さん「意味はあります。時差なしで開催試合をテレビ観戦でき、人気競技以外にも触れる機会が増えます。東京という街の認知度も今以上に高まるでしょう。また、2020TOKYO開催目的で政府予算を引き出すことが可能になります」

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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