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「○○くん」「△△兵衛」…“人の名前”のような商品ネーミング、どんな効果?

世の中にはさまざまな商品やサービスが存在しますが、人の名前のようなネーミングのものもよく目にします。なぜ、このようなネーミングにするのでしょうか。

商品名を人の名前にする理由は?
商品名を人の名前にする理由は?

 世の中にはさまざまな商品があり、その名前がユニークなものも数多く存在します。中には「ごはんがススムくん」「ガリガリ君」など人の名前のようなネーミングをした商品やサービスもよく目にしますが、なぜ、商品やサービスに人の名前のようなネーミングをするのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

親近感や口コミの効果を期待

Q.商品やサービスのネーミングは非常に重要だと聞きます。なぜ、重要なのでしょうか。

大庭さん「商品やサービスにネーミングをする主な理由は商品・サービスの存在を消費者の記憶に残すことによって、購入機会を拡大できるからであり、口コミによって商品・サービスの存在を広げやすくすることでシェアを拡大し得るからです。

モノやサービスがあふれかえっている現代は、モノやサービスの中身の特性を消費者に即座に認知してもらえないと選んでもらいにくくなります。例えば、お菓子売り場に『チョコレート』という文字だけが表示されたパッケージの商品が陳列されていても、消費者はただのチョコレートだとしか思いませんが、『ビター』という文字が表示されていれば、『ほろ苦い味』を連想し、大人味のチョコレートが好きな消費者の記憶に残ります。

さらに、そのネーミングがユニークな内容であれば、思わず手に取りたくなる消費者が増え、他人に対して口コミで伝える場合も広がりやすくなります」

Q.商品やサービスに「○○くん」といった人の名前のようなネーミングをするケースがあります。なぜ、そのようなネーミングをするのでしょうか。

大庭さん「擬人化した表現をすることで消費者が親しみを感じるからです。商品の場合はネーミングに加えて、キャラクターの姿や形を表したパッケージに包んで、売り場に大量に陳列することで消費者の視覚に訴える効果が増大し、購入を促します。そうすることで販売促進効果が高まります。

さらに、擬人化したネーミングにすることで他の類似商品やサービスの名称との類似性が小さくなり、商標登録時にトラブルが発生するリスクを低減できるというメリットもあります。これらの理由から、人の名前のようなネーミングを付けた商品やサービスが生まれているのです」

Q.人の名前のネーミングで商品やサービスの販売がうまくいった事例を幾つか教えてください。

大庭さん「1998年にサントリーフーズ(東京都中央区)が『なっちゃん』というネーミングで果汁飲料を発売しました。『果汁飲料をおいしく飲んだ、みんなで楽しく遊ぶ夏』をイメージして名付けられた商品だったのですが、明るく活発なイメージの女優が出演するCMと、『なっちゃん』という、明るく活発的女性を連想させるネーミングの相乗効果で、果実飲料市場で売上高が常に上位にくる商品に成長しました。

今や3500億円を超える市場規模にまで成長したカップ麺にも、人の名前を模したネーミングでロングセラーとなっている商品があります。1976年に日清食品(大阪市淀川区)が販売を開始した『どん兵衛』です。『どん』は『うどん』『どんぶり』という言葉の一部を表したものですが、『鈍い』『不器用な』の意味である『どんくさい』という言葉を連想させ、そこに、昔の日本人男性の名前に多く付けられていた『兵衛』という言葉が加わったことが消費者に親しみやすさを感じさせ、ヒットにつながったと考えられます」

Q.擬人化以外で特徴のあるネーミングとしては、どのようなものがありますか。

大庭さん「擬人化しないネーミングの場合は、商品やサービスの特徴を消費者に的確にイメージさせることで同様の効果を得ようとするものがあります。例えば、1985年に大塚食品が販売を開始した『アルキメンデス』というカップ麺があります。それまでのカップ麺と異なり、お湯をかける必要がなく、あんをのせるだけで食べられるインスタント麺だったのですが、『歩きながら食べられるカップ麺』という商品のイメージと『アルキメンデス』というネーミングとが合致し、話題となりました」

Q.「○○くん」というネーミングはなじみがありますが、「○○さん」というネーミングの商品やサービスはあまり聞きません。付けにくいのでしょうか。

大庭さん「私たちの生活において、親しく接することのできる相手や年下の人間に対しては『くん付け』で呼ぶことが多いと思います。一方、そこまで親しくない相手や目上の人間に対しては、通常は『さん付け』で呼ぶのではないでしょうか。つまり、相手との距離が近いかどうか、気軽に相手の懐に入り込んでいけるかどうかの違いです。

これと同様、同じ擬人化したネーミングであっても、『○○くん』と『○○さん』では買う側に与えるイメージが異なります。『○○くん』は親しみが湧き、売る側との距離も近くなりますが、『○○さん』では売る側との距離を感じてしまいます。このような理由から、『○○さん』というネーミングが付けにくいのではないかと思います」

Q.世の中には膨大な数の商品やサービスが存在しており、ネーミングもある程度、出尽くしてしまったようにも思います。その中で、比較的後発である「人の名前」のネーミングは今後も増えていきそうでしょうか。

大庭さん「現在は市場に供給される商品やサービスが飽和状態となり、機能や特徴面での差を打ち出すことが難しくなってきています。そのような中、心理的な面で消費者との距離を縮めるアピールを行うことは有効な販売促進手段となるため、『人の名前』のネーミングを付けた商品・サービスが今後も増えていくのではないかと思います」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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