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宛名が空欄の「領収書」、法的に問題ある? ただし書きが空欄だったら?

会社の経費精算に関して「宛名が空欄や『上様』はだめです」と注意された経験のある人もいるかと思います。法的に問題はあるのでしょうか。

宛名が空欄の領収書、法的に問題ない?
宛名が空欄の領収書、法的に問題ない?

 新型コロナウイルスの再拡大で忘年会を見送る企業が多い中、「会議室で仕出し弁当を食べて忘年会代わりに」「社内で缶ビールと乾きもので仕事納め」という企業も多いようです。そうした集まりのために買い出しに行った際、受け取るのが「領収書」ですが、この領収書について、社内の経理担当者から、「宛名が空欄や『上様』はだめ」「『ただし書き』が『品代』だと経費で落ちません」などと厳しく注意された経験はないでしょうか。

 領収書の宛名が空欄だったり、ただし書きが「品代」だったりすると、どのような法的問題があるのでしょうか。また、宛名の会社名が間違っていることに後で気付いたら、どうすればよいのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

所得税法上の問題はない

Q.領収書の役割と、宛名が「空欄」「上様」の領収書が法的にどのような問題があるのかについて教えてください。

佐藤さん「そもそも、領収書とは代金を受け取った人が支払った人に対して、商品やサービスの対価として、お金を受け取ったことを証明するために発行する書類です。

領収書はまず、企業などの事業者が『必要経費』として計上するときに役立ちます。必要経費か否かは領収書の宛名の有無で決まるわけではなく、事業との関連性が問題となります(所得税法37条1項)。すなわち、事業との関係で『直接必要な支出』であれば、必要経費として計上することができますが、プライベートの支出で、事業との関連性が認められない場合には計上できません。

従って、領収書の宛名が空欄だったり、『上様』といったあいまいな記載だったりしても所得税法上は違法となるわけではなく、記帳の状況や支出の目的などから、事業との関連性が認められれば経費として計上できます。ただし、支出によっては宛名が不明確なせいで事業との関連性が否定され、必要経費として認めてもらえないケースもあるので注意が必要です。

一方、消費税法では、仕入れ税額控除(売り上げにかかる消費税から、仕入れ時にかかった消費税を控除すること)の対象とする際、原則として、領収書に(1)発行者(2)取引年月日(3)取引内容(4)金額(5)受取人(宛名)――を記載するよう求めています(同法30条9項1号)。例外として、小売店(コンビニやスーパー等)、飲食店、旅客運送業(バスや電車等)、旅行業(ホテル等)、駐車場業(コインパーキング等)といった業種については(5)受取人(宛名)を記載しなくてもよいとしています。

従って、新幹線の切符を券売機で買うときなど、領収書に宛名を入れるのが難しい場合はもちろん、レストランやスーパーで代金を支払った場合など、宛名がないレシートも領収書として代用でき、消費税法上も違法にはなりません。結局、宛名が空欄(『上様』といったあいまいな記載の場合を含む)の領収書は業種によって、消費税法上問題になることがあるにとどまります」

Q.宛名が空欄や上様でも問題になることは少ないということですが、会社によっては少額の交通費などを除いて、「会社名入りの領収書を必ずもらってください」「『上様』はだめです」と指示しているところもあります。なぜでしょうか。

佐藤さん「先述した通り、法的には消費税法上の問題くらいしかないのですが、会社として独自のルールを定めているケースもあり、会社勤めの人は自社のルールを確認することが必要です。会社名が入っていない領収書の場合、そのお金を会社のために使ったのかが明らかでなく、経理担当が経費として認めにくいため、一律に『会社名入りの領収書』を求める会社が多いのでしょう」

Q.宛名が空欄のまま領収書を受け取り、自分で宛名を書いた場合、法的問題はあるのでしょうか。

佐藤さん「宛名が空欄のままの領収書に、真実に合致した宛名(会社の経費であれば会社名)を自分で書いた場合は、領収書の本質的な部分を変えて新たな文書を作ったとはいえず、名義を偽ったわけではないため、私文書偽造罪(刑法159条1項)などの法的問題にはならないでしょう」

Q.では、「真実に合致していない宛名」を領収書に自分で書いた場合はどうでしょうか。例えば、プライベートの飲食代を会社の経費で処理しようとして、会社名を書いた場合などです。

佐藤さん「会社に提出するため、うその宛名を書けば、その社員は私文書偽造罪などに問われる可能性がありますし、その領収書の提出によって会社がだまされ、プライベートの飲食代を社員に支払ったら、詐欺罪(刑法246条)になる可能性もあります」

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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