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大麻「使用」はなぜ処罰対象とならない? それでも尿検査をする意味は?

大麻取締法には、大麻の「使用」を処罰する規定がないそうです。なぜ、禁止することを明記していないのでしょうか。

伊勢谷友介被告
伊勢谷友介被告

 自宅で大麻を所持したとして、大麻取締法違反(所持)の罪で起訴された俳優の伊勢谷友介被告が9月30日、保釈されました。報道によると、尿検査の結果、大麻の陽性反応が出ており、本人も使用と所持を認めているものの、「使用」については大麻取締法に規定がないため、再逮捕や追起訴はされないとのことです。なぜ、大麻の使用は処罰されないのでしょうか。また、処罰されないのになぜ、尿検査をするのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

茎や種子は織物や食用に

Q.そもそも、大麻とはどういうものなのでしょうか。

牧野さん「大麻は『大麻草』という植物の花や葉に多く含まれる『THC(テトラヒドロカンナビノール)』という有害成分によって、幻覚症状などを起こす違法薬物です。『マリフアナ』などとも呼ばれます。

一方で、大麻草の成熟した茎の皮は麻織物など繊維製品の原料となります。また、種子(麻の実)は七味唐辛子の原料や小鳥の餌として使われます。先述したように、大麻草の花や葉にはTHCが多く含まれていますが、成熟した茎や種子にはほとんど含まれておらず、伝統的に織物や食用に栽培・使用されてきました。

そのため、大麻取締法は『花や葉などの部分の使用』を規制しています。同法1条では『この法律で大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)およびその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎およびその製品(樹脂を除く)ならびに大麻草の種子およびその製品を除く』と規定され、七味唐辛子や小鳥の餌への、麻の実などの使用は規制されていません。

大麻の有害性について、厚生労働省のホームページでは『大麻は脳に影響を与える違法な薬物です! 大麻に含まれる有害成分、THC(テトラヒドロカンナビノール)は、幻覚作用や記憶への影響、学習能力の低下等をもたらします』との記載があります」

Q.大麻取締法で処罰対象になっているのは、どういう行為なのでしょうか。

牧野さん「免許・許可を受けた人以外が所持や栽培をすることです。大麻取締法では『大麻取扱者』(免許・許可を受けた『大麻栽培者』『大麻研究者』)でなければ、大麻の(1)所持(2)栽培(3)譲り受け(4)譲り渡し(5)研究のための使用、または(6)輸出入などができず、それらの行為を禁止しています(3条、4条)。

罰則は同法24条と24条の2で規定しており、『所持・譲り渡し・譲り受け・研究目的の使用』については、個人使用目的の場合は5年以下、営利目的の場合は7年以下の懲役となります。『栽培・輸出入』については、個人使用目的なら7年以下、営利目的なら10年以下の懲役です(営利目的の場合、罰金が併科されることも)。

ちなみに、免許・許可を受けた『大麻栽培者』とは例えば、先述した麻製品用に栽培している人で、農家の人たちは免許を取得し、毎年更新して、大麻草を栽培しています。一方、大麻取締法には、大麻の『自己使用』そのものを規制する条文はありません。法で自己使用を規制していないので、当然ながら、処罰対象にもなっていません」

Q.なぜ、自己使用は処罰対象ではないのでしょうか。

牧野さん「有害性がないから、処罰対象とならなかったわけではありません。尿検査で大麻の陽性反応が出ても、禁止対象である大麻の『花』『葉』をその人が摂取したとは必ずしも言えないからです。

これまで述べてきたように、大麻草の成熟した茎や種子は私たちの生活の中で広く利用されており、許可を得て栽培している人たちもいます。茎や種子にも極めて微量ながら、有害成分のTHCが含まれていることがあり、合法的に大麻草を栽培したり、利用したりしている人から陽性反応が絶対に出ないとは言い切れないのです。

そこで、覚醒剤などと異なり、処罰範囲を明確にするために大麻の『自己使用』が処罰対象から除外されたと考えられます」

Q.自己使用が処罰対象ではないのに、なぜ、尿検査をするのでしょうか。

牧野さん「『自分が使用する目的で、自分の意思で所持していた』ことを証明するために、尿検査が行われていると思われます。確かに、大麻の自己使用自体は処罰されないので、使用したかどうか調べる意味はないように思えるかもしれません。

しかし、大麻取締法でも、『みだりに所持』=『法定の除外事由なく』所持することに罰則を適用、つまり免許・許可を受けた『大麻栽培者』『大麻研究者』でない人による『個人使用目的などの所持』に罰則を適用することにしているので、使用した事実を証明することは意味があります。また、『他人から預かった』などの言い逃れをさせないためとも考えられます」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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