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体調不良リポーター継続に批判も…テレビの「猛暑」「台風」中継、本当に必要?

炎天下で暑さを実感とともに伝える「猛暑中継」や台風接近時の「台風中継」はテレビニュースの定番ですが、本当に必要なのでしょうか。

「台風中継」「猛暑中継」は必要?
「台風中継」「猛暑中継」は必要?

 炎天下で暑さを実感とともに伝える「猛暑中継」が8月、テレビでよく見られました。熱中症への注意を促すためではありますが、リポーター自身がもうろうとしている場合もあり、危険に思えます。また、9月は台風上陸が多い時季ですが、最近は減ってきたものの、テレビでは台風接近時の「台風中継」も定番です。危険な状況にリポーターや記者を置いて伝える、猛暑中継、台風中継は本当に必要なのでしょうか。報道番組の制作にも詳しい広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

猛暑の「臨場感」を伝える

Q.テレビ局はなぜ、猛暑中継をするのでしょうか。

山口さん「『臨場感』を伝えるためだと思います。ギラギラした太陽の下に身を置いたリポーターの生々しいコメント、噴き出す汗、手にした温度計が示す高い温度などの映像やコメントを通して、テレビ局は猛暑の臨場感を伝えようとしているのです。

しかしなぜ、臨場感を伝えることがそれほど重要なのでしょうか。一つ考えられる理由として、テレビに近年、『衝撃映像』があふれていることがあります。デジタルカメラとSNSの発展で、今や『誰でも記者になれる』時代です。例えば、レバノンの大爆発の瞬間は一瞬にして破壊される街並み、吹き飛ぶ窓ガラスなどの映像が現場に居合わせたかのような恐怖を私たちに感じさせました。

アパートのベランダから撮影した押し寄せる津波、車載カメラが捉えた事故の瞬間など、臨場感あふれる映像が数えきれないほど放送されています。これらの衝撃的な映像の大部分は一般の人たちが撮影したものです。

『テレビで何かを伝えるには臨場感が必要だ』とテレビ局は考え、さらに『一般人のリポート』の後塵(こうじん)を拝するような中継があっては恥をかく、と思っているのではないでしょうか」

Q.では、屋外での台風中継はなぜでしょうか。

山口さん「猛暑中継と同じ考え方です。台風のすさまじさは、現場で体感している人が強い風に体をかがめ、『風で息が詰まります』などと臨場感あふれるリポートをすることで視聴者に伝わるとテレビ局は考えているのだと思います。実際、台風中継は昔から、暴風雨の中で体を張って伝える手法が定番でした」

Q.台風中継に関しては、昔よりも危険な場所、時間帯を避けるようになってきた印象があります。きっかけなどがあったのでしょうか。

山口さん「確かに、近年は『安全な建物の中からお伝えしています』という中継が増えてきたと思います。特別なきっかけがあったというよりは、台風の危険度に対する認識が年ごとに高まってきたからだと思います。

台風は強風だけでなく、高潮、豪雨、洪水などさまざまな危険を伴います。1994年には、高波が押し寄せる関西空港の岸壁からTBSが中継を行い、危険な中継をやめるよう気象庁がTBSに要請したことがありました。

また、リポーターが嵐の中に立って、『外出は控えるように』と注意するのは矛盾しているとの反省が出てきたのかもしれません。近年は視聴者の意識にも変化が生まれており、『体を張ってまで台風の中継はやるべきではない』などの声がネットで見受けられます」

Q.一方、猛暑中継はまだ「現場で」という空気が強いように思います。なぜでしょうか。

山口さん「一つは、台風中継に比べると、猛暑中継の危険度はそれほど高くないという認識があるのだと思います。また、暑い、寒いなどの感覚は現場で体感しているリポーターを通して伝える以外に効果的な方法がないと考えているようにも思います。

私が昔、NHKの帯広放送局(北海道帯広市)に番組制作者として駐在していた際、『日本で一番寒い朝』を陸別町から全国に中継するのが『恒例行事』でした。朝3時に中継車に乗り、7時台の放送です。外に出ると全身が“棒”になったように感じました。息を吸うごとに鼻腔(びこう)がピクと凍りつき、無精ひげから小さなつららが垂れ下がりました。

『極寒の厳しさを伝えるためには現場中継をやるしかない』と思っていましたが、実際、中継を見て、『全身がぞくぞくする寒気を感じました』と多くの視聴者から感想が来たとのことでした」

Q.台風などの災害中継、災害取材では事故もあったと思います。

山口さん「1991年6月3日、長崎県の雲仙普賢岳の噴火による火砕流に巻き込まれて43人が犠牲になりました。そのうち20人が新聞社員やテレビ局員、フリーのカメラマン、そして、マスコミがチャーターしたタクシーの運転手でした。山肌を猛スピードで流れ落ちる火砕流の恐ろしいニュース映像は今でも、私の記憶にとどまっています。

2006年9月の台風取材では、中国新聞の記者が行方不明となりました。また、2011年3月、東日本大震災を取材していた福島民友新聞社の記者が津波により殉職しました。津波が来ることを住民に伝え、自らは犠牲となったとのことです」

Q.猛暑中継や台風中継は必要でしょうか。

山口さん「必要だと思います。体感を伴う中継は視聴者の注意を喚起します。現場からの報道でないとニュースとしての現実感が乏しくなります。しかし、現場中継は『安全あっての物種(ものだね)』です。事故が発生すれば、中継そのものやテレビ局が国民の批判に晒(さら)されます。

フジテレビ系の情報番組『直撃LIVEグッディ!』の安藤優子キャスターが8月、SNSなどで強い批判を浴びました。猛暑の中継にあたっていたリポーターが体調不良を訴え、言葉がうまく出なくなったのに、中継を続けるよう指示したからです。体感を伴う中継は必要だと思いますが、安全を確保しながらというのが条件でしょう」

Q.現場の中継以外で、猛暑や台風の危険性を伝えるにはどのような方法が考えられるでしょうか。災害報道全体の方向性も含めて教えてください。

山口さん「ウイズコロナのこの時代、さまざまな報道はネット経由のコメンテーターや専門家の参加者を含めて構成されています。同様に、災害現場にテレビ局が出掛けてゆかなくても、現場に住む人たちや居合わせた人たちのスマホに入れたZoomなどを通して番組に参加してもらうことにより、中継に近い報道ができるのではないかと思います。

『誰でも記者になれる』時代は今後の災害報道の、一つの方向性を示していると思います。もちろん、一般の人もマスコミ側の人間も、現場の人々の安全確保が何より大切です」

(オトナンサー編集部)

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

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