赤ちゃんの成長願う「お宮参り」、おでこに書く文字の意味は? 地域で違いも?
赤ちゃんを連れて神社を参拝し、健やかな成長を願う「お宮参り」で、赤ちゃんのおでこに文字を書くことがあります。どんな意味があるのでしょうか。
赤ちゃんを連れて神社を参拝し、健やかな成長を願う「お宮参り(初宮参り)」は誕生を祝う大切な行事の一つです。お宮参りといえば、赤ちゃんのおでこに文字を書くことが知られていますが、文字は「犬」「×」「大」「小」など地域によって違いがあるようです。これについて、ネット上では「娘が生まれたときは『小』でした」「『犬』は初めて聞いた」「どういう意味があるんだろう」など、さまざまな声が上がっています。
お宮参りを象徴する「おでこの文字」に込められた意味について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
神様に守られている印
Q.そもそも「お宮参り(初宮参り)」とは何でしょうか。
齊木さん「お宮参りとは、赤ちゃんが初めて氏神様にお参りをし、神様の御加護と無事に生まれたことに感謝して健やかな成長を祈る儀礼です。神様に誕生を報告し、氏子の一員として認めてもらう意味合いもあります。男の子は生後31日目、女の子は32日目にお参りするのが一般的ですが、早いと7日目、遅いと100日を過ぎる地方もあります。
こうした風習は、古代から「産土(うぶすな)詣」として行われてきました。現代のように、神様への報告だけではなく氏子として認めてもらう意味を持った『お宮参り』が行われるようになったのは、鎌倉~室町時代と考えられます。
江戸時代になると、武士たちの間ではお宮参りを済ませた後、幕府の大老宅へあいさつに立ち寄る習慣が生まれました。武家社会の風習はその後、親族や知人の家へお宮参りの報告とあいさつに出向く習慣として一般人の間にも広まり、やがて全国へ広がったとされています」
Q.お宮参りの際、赤ちゃんのおでこに文字を書くのはなぜでしょうか。
齊木さん「この風習は平安時代にさかのぼります。昔は医療体制が十分ではなく、生後間もなく命を落としてしまう赤ちゃんが珍しくありませんでした。そこで、平安時代の宮中では『乳幼児の額に“×”と書く』ことが悪霊よけのおまじないとされ、健康にすくすくと育つように願いを込めていました。
これを『あやつこ(綾子)』と呼び、2本の線が交わる『×』が魔よけの力を持つと考えられていました。また、『犬』は元気にすくすく育つことへの願いを込めて書かれていました。
『あやつこ』は紅で書かれたとされていますが、紅は上流階級でのみ使われ、庶民は鍋の墨で書くのが決まりとされていました。現代では、両親が書き入れる▽祖父母が書き入れる▽お宮参りをした宮司さんが書き入れるなどさまざまなので、地域や家庭で確認してみましょう。
おでこに書き入れる理由の背景には、『あやつこ』が、かまどの神様である『荒神(こうじん)』の保護を受けている印とされていたことがあります。『あやつこ』を付けたものは、神の保護を受けたものであることを明示し、それに触れることを禁じたのです」
Q.おでこに書く文字の種類に地域性があるのは事実でしょうか。
齊木さん「事実です。関西地方の京都府・大阪府・奈良県・兵庫県では、男の子には『大』、女の子には『小』という文字を書き入れます。これには、男児は大きく育つように、女児は優しく健やかに育つようにという意味があります。先述の『×』に起源があり、次第に『+』『犬』、そして『大』『小』に変わり、今でも名残があります。
また、各地域の寺社によってもさまざまな字や印があります。千葉県野田市の桜木神社では、桜の印を押してくれます。また、群馬県藤岡市の富士浅間神社でも、ご神紋である桜の印を押します。
兵庫県西宮市の西宮神社では、おでこに白い粉(お清めの塩)を付け、千葉県成田市の成田山新勝寺では、健康成長を祈願して不動様を表す『梵字(ぼんじ)』を記します。福岡県久留米市の久留米水天宮では、男の子にはおでこに黒で、女の子には赤で『、』と付けます。一方、東京都渋谷区の代々木八幡宮では朱墨で『、、』を付けてもらいます。
このように、地域や社寺によりその土地に根差したさまざまな習わしがあるのです」
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