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新型肺炎流行で「中国人入店禁止」 駄菓子店の張り紙、法的責任は問われない?

観光地にある駄菓子店が中国人の入店を禁止する張り紙を掲示し、賛否両論の声が上がりました。外国人を差別する行為は、法的責任を問われないのでしょうか。

東京を訪れた中国人観光客(2020年1月、時事通信フォト)
東京を訪れた中国人観光客(2020年1月、時事通信フォト)

 中国で新型コロナウイルスによる肺炎が流行し、日本国内でも感染者が相次いでいます。そんな中、神奈川県箱根町の駄菓子店が1月、中国人の入店を禁止する内容の張り紙を中国語で掲示し、ネット上で賛否両論が出ました。報道によると、店主はマナーの悪い中国人観光客に店を荒らされてきたことや、新型コロナウイルスに対する自衛目的で掲示したといいます。

 外国人を差別する内容の張り紙を掲示する事例は過去にもありましたが、法的責任を問われないのでしょうか。グラディアトル法律事務所の磯田直也弁護士に聞きました。

国内法としての人種差別撤廃条約

Q.「中国人の入店を禁止する」といった、特定の外国人を差別する張り紙などを掲示したり、店の公式サイトや公式SNSなどで同様の内容を掲載したりした場合、法的責任を問われる可能性はありますか。

磯田さん「外国人を差別する内容の張り紙を掲示することは『不当な差別的取り扱い』と見なされ、民法上の不法行為(民法709条、710条)として損害賠償責任を負う可能性があります。街頭で店舗を構えて営業している以上、店は道を歩く顧客一般に広く開放されており、経営者は顧客対象を限定したり、入店制限をしたりしてはならないと考えられているからです。

この考えは、わが国が批准している人種差別撤廃条約が国内法としても効力があり、同条約が個人間の損害賠償請求においても不法行為かどうかの判断基準となることに基づいています。

もっとも、損害賠償請求が認められるには、差別を受けたとする外国人の側で精神的苦痛を受けたというところまで立証しなければなりません。そのため、店に差別的な内容の張り紙が掲示されていたり、公式サイトやSNSに同様の内容の文書が掲載されていたりしても、外国人の来店がなかった場合や入店拒否などをされていない場合、損害賠償請求は認められにくいでしょう」

Q.刑法の観点ではどうなのでしょうか。

磯田さん「入店拒否の際の状況次第では、店主の言動などが名誉毀損(きそん)罪(刑法230条)や侮辱罪(同231条)に当たるとして、刑事責任が生じる可能性があります。その他、旅館業法など個別の法律で差別的な取り扱いを禁止している業種の場合は違法行為となり、刑事責任を追及されたり、行政処分をされたりする場合があります」

Q.「マナーの悪い観光客を入店させたくない」「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎたい」といった目的で張り紙を掲示した場合はどうでしょうか。

磯田さん「損害賠償請求が認められるには、掲示が『不当な差別的取り扱い』に当たるといえる必要があります。そのため、張り紙の掲示理由が客観的に見て正当な場合は、倫理的問題は別として法的責任を問うことは難しくなります。

実際に掲示理由が正当なものだと言えるかどうかは(1)入店を断らなかった際に感染などが広がる可能性がどれくらいあるのか(2)入店拒否によって外国人が受ける不利益がどの程度のものなのか――などの諸事情を総合して判断することになるでしょう」

Q.川崎市のように、外国人への差別的な言動を禁止する「ヘイトスピーチ禁止条例」を成立させた自治体も登場しています。こうした自治体で「中国人の入店禁止」などといった張り紙を掲示すると、法的責任を問われる可能性はありますか。

磯田さん「『ヘイトスピーチ禁止条例(差別のない人権尊重のまちづくり条例)』は今後、各自治体が条例を制定する際のモデルケースになると思われます。条例には50万円以下の罰金が定められていますが、禁止されているのは、道路、広場、公園、その他公共の場所における掲示などということになっています。

そうだとすると、自身の店舗での張り紙は条例の規制行為には該当しないということになると思われます。もっとも、条例の内容は自治体ごとに定めるため、店舗内での掲示も含めて罰則の対象とする条例が今後制定される可能性はあります」

Q.どのような内容の張り紙や文書を公表すると、差別と見なされるのでしょうか。また、張り紙や文書以外で差別と見なされる行為はありますか。

磯田さん「これまでに『外国人の入店は固くお断りします』『外国人の方の入場をお断りいたします。JAPANESE ONLY』といった掲示が問題となったことがあります。もっとも、これらについては掲示だけではなく、実際に入店拒否があったケースとなります。

また、ゴルフクラブへの入会拒否や、顧客に肌の色について執拗(しつよう)に質問すること、マンションへの入居拒否などがあり、『不当な差別的取り扱い』に当たるとして問題となったことがあります」

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磯田直也(いそだ・なおや)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。広島大学法学部卒業後、大阪大学大学院高等司法研究科修了。「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」「インターネットトラブル」などを得意分野とする。

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