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「要請」「緊急事態宣言」ではなく、政府や自治体が強制力を発動できるケースは?

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府は対応に追われています。そもそも、政府が国民や企業に対し、強制力を発動するのはどんなときでしょうか。

緊急事態宣言を出す鈴木直道・北海道知事(2020年2月、時事)
緊急事態宣言を出す鈴木直道・北海道知事(2020年2月、時事)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、安倍晋三首相は2月27日、全国の小中高校などが3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請することを表明しました。突然の要請に学校側は対応に追われましたが、これまでに全国の99%近い学校が休校措置を取りました。また、2月28日には、北海道知事が「緊急事態宣言」を出し、3週間にわたり外出を控えるよう呼びかけました。

 一連の措置はあくまで「要請」「注意喚起」という意味合いにとどまりましたが、政府や自治体が民間人や企業に強制力を発動するのはどんなときでしょうか。グラディアトル法律事務所の磯田直也弁護士に聞きました。

休校要請は「お願い」に過ぎない

Q.政府が各自治体の教育委員会などに「一斉臨時休業要請」(休校要請)を出しました。中には、休校措置を取らなかった自治体もありましたが、この要請を通じて政府が強制的に休校させることはできたのでしょうか。

磯田さん「学校の臨時休業について定めた学校保健安全法20条では、『学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部または一部の休業を行うことができる』と規定されています。ここでいう『設置者』とは、主に各都道府県や市区町村の教育委員会を指すため、休業するかどうかを判断するのは教育委員会であり、政府ではありません。

また、現在、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的で、政府が教育委員会などに対し休校を強制できると定めた法律はありません。従って、休校要請はその言葉通り『お願い』に過ぎず、教育委員会が要請に沿って判断する義務はないと考えるべきでしょう」

Q.法的拘束力がないにもかかわらず、結果的に国内の99%近い学校が休校措置を取りました。「要請」を強制力があるものだと誤解したのでしょうか。

磯田さん「教育委員会などが、安倍首相の表明や文部科学省からの『要請』に強制力があると誤解したのではないと思います。本来、政府が学校に対して何からの要請をしたいと考える場合、文科省から各教育委員会に通達などの形で要請を行い、それを受けて、教育委員会が学校とやりとりする中で要請に応じるか否かの意思決定がなされることになっています。

ただ、今回は各所で調整が行われることなく、安倍首相から教育現場に直接要請する表明がなされたため、教育委員会や学校などに相当のインパクトを与えたのではないかと思われます。さらに、首相の発表を受ける形で、文科省も各教委などに休校を要請する通知を出しました。そのため、各地の教育委員会は休校措置を取るのが妥当と判断したのではないでしょうか」

Q.「要請」よりも強制力が高い措置はあるのでしょうか。また、北海道知事が2月28日に出した「緊急事態宣言」とはどのような措置なのですか。

磯田さん「政府が地方公共団体(教育委員会含む)に対して、『助言』『勧告』など非権力的に関与したり、必要な資料の提出を求めたりすることはあっても、権力的な立場に立って監督・干渉することは原則として許されていません。

例外として、政府による権力的関与には、『是正要求』『同意』『許認可』『指示』『代執行』などがあり、いずれも今回の『要請』より強制力の強い措置です。これらは、特に法律に定められている場合に、必要最小限に許されるにすぎないものです。

北海道知事が出した『緊急事態宣言』については、法的根拠はありません。そのため、法的拘束力はなく、罰則などもありません。あくまで拘束力のない要請や住民への注意喚起にとどまります」

Q.感染症や災害などの非常時、政府や各都道府県知事が民間人や企業に強制力を発動できる措置には、どのようなものがあるのでしょうか。また、こうした措置に従わなかった場合の罰則は。

磯田さん「現在では(1)災害対策基本法に基づく災害緊急事態の布告(同法105条1項)(2)新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型インフルエンザ等緊急事態宣言(同法32条)が挙げられるでしょう。これらはいずれも、内閣総理大臣が発するものと定められています。

(1)については緊急措置(災害対策基本法109条1項)として政令(供給が特に不足している生活必需物資の配給、譲渡、引き渡しの制限や禁止など)を制定できますが、その中で、政令違反についての罰則(2年以下の懲役もしくは禁錮、10万円以下の罰金、拘留、科料もしくは没収、またはこれらの併科)を定めることができるとされています(同法109条2項)。

(2)については、都道府県知事などの命令に従わず、新型インフルエンザなどの対応に必要な物資を隠匿、損壊、廃棄、搬出した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する(新型インフルエンザ等対策特別措置法76条)、立ち入り検査を拒むなどの行為については30万円以下の罰金に処する(同法77条)と定められています」

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磯田直也(いそだ・なおや)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。広島大学法学部卒業後、大阪大学大学院高等司法研究科修了。「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」「インターネットトラブル」などを得意分野とする。

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