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カフェやバーでの「スポーツ中継」「映画上映」、著作権法上は問題ない?

カフェやバーの中には、スポーツ中継や映画などの映像を流す店もあります。著作権法上、問題とならないのでしょうか。

スポーツバーでサッカー中継を楽しむ人たち(2020年7月、時事)
スポーツバーでサッカー中継を楽しむ人たち(2020年7月、時事)

 新型コロナウイルスの影響で休業していた飲食店の多くが営業を再開し、6月にプロ野球が開幕、7月にはサッカーJ1リーグも再開しました。カフェやバーの中には、スポーツ中継や映画を流す店もありますが、そもそも、多くの人が集まる場所でこうした映像を流すのは著作権法上、問題にならないのでしょうか。グラディアトル法律事務所の磯田直也弁護士に聞きました。

大型装置使用は許可が必要

Q.飲食店など人が集まる場所で、スポーツの試合や映画を上映することは法的に問題ないのでしょうか。

磯田さん「店の状況によって異なります。テレビのスポーツ中継や生放送、映画などの映像はいずれも、通常は著作権法によって著作物として保護されています。そのため、これらの映像を店舗で流す際は、著作権法38条3項の要件を満たすかが問題となります。

同項は『放送され、または有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆または観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする』と、営利を目的としない上演などについては、著作権侵害とならない旨が規定されています。

ここでのポイントは『営利を目的とせず、かつ、聴衆または観衆から料金を受けない場合』『通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする』の部分です。前者については、映像を流すことを店舗の宣伝に用いて参加費や場所代、飲食代などを取らないことを要求しています。後者については、営利を目的に料金を受ける場合であっても、家庭用テレビを使用していれば著作権侵害には当たらないことを意味します。

また、一般家庭にはないような大きなテレビや、専用の設備などを使用しないことを求めていると理解されています。例えば、街の定食店などでテレビ放送が流されていることがありますが、設置されているのが家庭用テレビであれば、飲食代金として料金を得ていたとしても、『通常の家庭用受信装置を用いてする場合』に該当し、著作権侵害には当たりません。

一方、スポーツバーのような店舗では大型のテレビやプロジェクター、複数のモニターを合わせたマルチディスプレーで上映が行われていることが多いと思います。そして、スポーツ観戦をできることが店舗の宣伝文句にされていて、飲食代金や入場料などの料金も得ていると思いますので、権利者に無断で上映をした場合は著作権侵害となります。

もっとも、多くのスポーツバーでは、事前に放送事業者や著作権管理団体に許可を取ったり、業務用の衛星放送チャンネルを契約したりして法的問題をクリアしています」

Q.それでは、もし無断で映像を上映した場合、どのような罪に問われるのでしょうか。

磯田さん「刑事責任については著作権法119条1項で、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると規定されています。さらに、同法124条1項では両罰規定として、法人に対して3億円以下の罰金刑が定められています。両罰規定とは、従業員が法人の業務に関して罪を犯したときに、その行為者を罰するだけでなく、法人やその代表者(または代理人)に対しても罰金刑を科すものです。

また、権利者などから民事事件として、損害賠償請求を受けることもあり得ます」

Q.飲食店でスポーツの中継映像などを流す際、守らなければならないルールはあるのでしょうか。

磯田さん「前述の通り、家庭用のテレビ以外の装置を使って放映しようとする場合、映像の放送事業者や権利者から許可を取らなければいけません。もっとも、事業者や権利者はスポーツの種類ごとに違いますし、試合ごとに許可を取るのは事実上、かなり煩雑です。そのため、店内で流したいスポーツの映像をある程度絞った上で、包括的な契約によって許可を得たり、業務用の放送チャンネルを契約したりする必要があります」

Q.来年開催予定の東京五輪に関して、通常のスポーツ中継と違う面はありますか。

磯田さん「オリンピックについても、店舗で映像を流そうとする場合は、放送事業者などから許可を得る必要があります。

映像とは異なりますが、IOC(国際オリンピック委員会)やJOC(日本オリンピック委員会)が東京五輪向けのマーケティングガイドラインを出しており、五輪マークやマスコット、『がんばれ!ニッポン!』というスローガンやエンブレム、『JOCオフィシャルパートナー』『オリンピック日本代表選手団を応援しています』などの文言はIOCなどが知的財産権を有しているため、権利者の許諾なしに商業利用の一環として、企業・団体などのイメージアップや商品価値向上のために使用することは禁止されています。

従って、スポーツバーなどの飲食店が宣伝や広告でこれらの文言を許可なく使用した場合、不正競争防止法違反や商標権侵害、著作権侵害となる可能性があるため、事前にJOCに相談する必要があります」

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磯田直也(いそだ・なおや)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。広島大学法学部卒業後、大阪大学大学院高等司法研究科修了。「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」「インターネットトラブル」などを得意分野とする。刑事事件に関する相談(https://criminal-case.gladiator.jp/)。

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