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五輪マラソン札幌案、暑さ対策で正当化される? 開催都市以外はアリ? 是非を識者に聞く

2020年東京五輪のマラソンと競歩について、猛暑対策として札幌市で開催する案が急浮上。スポーツに詳しい識者の見解を聞きました。

猛暑のカタール・ドーハで開かれた世界陸上のマラソンと競歩では棄権者が続出した(2019年10月、EPA=時事)
猛暑のカタール・ドーハで開かれた世界陸上のマラソンと競歩では棄権者が続出した(2019年10月、EPA=時事)

 2020年東京五輪のマラソンと競歩について、猛暑対策として札幌市で開催する案が急浮上しました。反対の声もあるものの、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「決定した」としています。真夏の東京におけるマラソンや競歩の開催については、選手や観客、ボランティアの熱中症を懸念する声もあり、組織委員会は、氷風呂やかち割氷を用意するなど対策を講じてきましたが、抜本的な見直しを突き付けられた形です。

 札幌開催案の是非について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。

タイム競技の公平性欠く懸念

Q.札幌開催案について、どのように思われますか。

江頭さん「競技の公平性を維持するなら、札幌開催が妥当です。総論として、オリンピックはアスリートのものです。世界一のアスリートを4年に1度決める大会ですから、アスリートの能力を100パーセント引き出せる環境を用意しなくてはなりません。

陸上の短距離競技では、会場の風によって公式記録とならない場合があります。マラソンや競歩にはそこまで厳密な規定はありませんが、大会によって大きな違いがあったら、タイムで競われている世界記録の意味がなくなってしまいます。最高気温35度を超えることが多い夏の東京でマラソンや競歩を行うことは、タイム競技の公平性を欠くことになりかねません」

Q.五輪の開催都市以外で競技を開催することの是非について、どのように考えますか。

江頭さん「五輪は都市という単位で開催されています。世界中のアスリートが選手村で生活を共にすることで生まれる『刺激』や『友情』も五輪の産物だからです。マラソンと競歩が札幌開催になると、マラソン選手や競歩の選手は東京の選手村ではなく早々に札幌での調整に入り、他競技の選手との交流ができなくなります。これは五輪にとって大きな損失になるでしょう。

ただ、今回のケースでは、アスリートの能力を100パーセント引き出せる環境を用意することを優先せざるを得ないと思います」

Q.東京から札幌に会場を移した場合の課題は。

江頭さん「最も懸念されるのは警備です。マラソン大会そのものは札幌でも開催されていますし、運営側にもノウハウがあります。6カ月あれば準備は可能でしょう。しかし、五輪は警備が特別になります。1972年のミュンヘン五輪では、テロリストが人質を取って選手村に立てこもったことがあります。五輪ではありませんが、注目度の高いボストンマラソンで爆発物テロが起きたこともあります。

世界中が注目している五輪はテロの格好の標的になります。東京五輪では開催期間中、大規模な警備を行う予定ですが、マラソンという、広範囲で万全の警備を行うために、全く新規の警備陣をつくらなくてはならず、コストもマネジメントも膨大になるでしょう」

Q.招致委員会の立候補ファイルで、夏の東京について「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」とうたっていました。そのことについて感想があればお願いします。

江頭さん「『アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候』という記載は不正確だと思います。競技によっては理想的かもしれませんが、マラソンにとっては理想的ではありません。過去に、真夏の東京でマラソン競技が開催されていないことを鑑みれば、明らかです」

Q.今回、トライアスロンは見直し対象に入っていませんが、こちらも暑さが懸念されています。

江頭さん「トライアスロンは真夏の競技です。最も過酷なトライアスロンの大会、アイアンマンレースはハワイで行われています。海を長距離にわたって泳ぐことから、暖かい季節に行われます。単純に『長距離だから』という視点ではなく、その競技の背景や今までの慣習などを理解した上で考えるべきです」

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江頭満正(えとう・みつまさ)

尚美学園大学准教授

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年、尚美学園大学教員となり、現在に至る。

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