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ラグビーNZ代表「ハカ」を踊ってスタンドを味方に…不公平ではない? 過去に警告も?

ラグビーのニュージーランド代表が試合前に踊る「ハカ」ですが、心理面で優位な立場に立てるため、「不公平だ」という声もあります。専門家に聞きました。

「ハカ」を披露するニュージーランド代表(奥)と、肩を組んで相対する南アフリカ代表(2019年9月、時事)
「ハカ」を披露するニュージーランド代表(奥)と、肩を組んで相対する南アフリカ代表(2019年9月、時事)

 日本で開催中のラグビーワールドカップ(W杯)で先日、南アフリカ代表と対戦したニュージーランド代表(オールブラックス)が、試合前に恒例の先住民族マオリの伝統舞踊「ハカ」を披露しました。スタジアムは大いに盛り上がりましたが、ハカを踊ることについて「不公平ではないか」という声もあります。観客を盛り上げ、そのムードのまま試合に入り、心理面で優位な立場に持っていく効果があるためです。

 試合開始前、グラウンドでハカを踊る機会を与えられていることは不公平にあたらないのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。

ゲーム前のパフォーマンスと解釈

Q.オールブラックスが、グラウンドで「ハカ」を踊る機会を与えられていることは不公平にあたらないのでしょうか。

江頭さん「現在では、問題ないこととされています。ハカは、対戦相手と敵対するものではなく、ゲームを始める準備のパフォーマンスだと解釈されているからです。ゲーム前にプレーヤーが円陣を組んで気持ちを一つにする、『やるぞ!』と気合を入れる、こういった行為と同じ扱いになりました。

逆に、対戦相手の準備を邪魔することは、マナーに反します。最高のコンディションでゲームに臨んでもらうのがスポーツマンシップです。現在では、ハカを踊っているときに、10メートル以内には近づかないことが暗黙の了解となり、審判もハカを邪魔しないよう警告するようになりました」

Q.以前は、ハカに対してどのような対応が行われていたのですか。

江頭さん「ハカのパフォーマンスは、対戦相手に向かって大きく舌を出す動作から始まります。他にも、喉から下に引かれる親指のジェスチャーが『喉の切り裂き』を暗示するものとして解釈され、論争を巻き起こしました。ハカの中で発している言葉も、戦いに向けて戦士を鼓舞する内容で、『たたきつぶせ』『切り刻め』などと解釈できる部分もあります。このような理由から、過去に何度も、大会主催者や協会から警告を受けてきました」

Q.警告を受けたとき、オールブラックスはどのように対応したのですか。

江頭さん「オールブラックスとマオリ族はジェスチャーについて、『生命の息吹を心臓と肺に引き込む動作である』と主張しました。オールブラックスは2005年、ウェールズ(イギリスの構成国)ラグビー連合から、ハカのパフォーマンスを行わないように要請されましたが、オールブラックスは拒否し、代わりに試合前に更衣室でハカのパフォーマンスを行いました。

当時、オールブラックスのキャプテンだったリッチー・マッコーは『ハカはニュージーランドの文化とオールブラックスの遺産と一体であり、他のチームが不愉快に感じる場合は、小屋でハカをやるだけだ』と述べました。観客はハカがグラウンドで行われないことに否定的反応を示し、スタジアムのスクリーンでハカの短い映像が流されました。

2006年には、アイルランドがニュージーランド遠征で行ったゲームでも、アイルランドがハカに否定的だったため、試験的にハカを行わない選択をニュージーランドラグビー協会が行っています」

Q.相手チームは、ハカをどう思っているのでしょうか。

江頭さん「世界各国の多くのチームが、ハカに対して否定的です。しかし、ハカがラグビーの遺産の一部であるとの認識が広がったため、現在ではほとんどのチームが、パフォーマンス中にオールブラックスと対面し、両チームが約10メートル離れて、終わるのを見守ることをマナーとして受け入れています。

以前は、オールブラックスがハカを踊っているとき、どのように相対したらよいのか対策を練ることもありましたが、それによって勝率が飛躍的によくなることはないため、現在ではあまり積極的に行われていません。

ハカは、日本のプロ野球で行われている七回の応援歌と構造的には似ています。ホームチームだけ会場の音響を使って応援歌を流し、対戦相手も応援歌と風船飛ばしが終わるのを粛々と待っています。チームがよりよいパフォーマンスを発揮するための応援歌であり、観客もその行為を楽しみにしています。プロ野球観戦の一部として欠かすことのできないイベントになっています。

同様に、オールブラックスの試合チケットを購入する観客は『生のハカ』を見ることにもお金を払っていると思います」

Q.オールブラックスがハカを踊っているときに、相対しないチームもあるのですか。

江頭さん「対戦するチームによっては、ハカを無視する戦術を取ることもあります。オーストラリアのラグビーチームは、1996年のウェリントンでのテストマッチで、オールブラックスからかなり離れた場所でウオームアップを行いました。

また、イタリアのラグビーチームは2007年のワールドカッププールマッチで、ハカを無視しました。最も顕著なのは、オールブラックスに対抗する代わりに、ウオームアップ訓練を行うことを選んだ1991年のワールドカップ準決勝ですが、このゲームはオールブラックスが勝っています」

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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