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高齢者はなぜ「運転免許」を返したがらないのか、家族や周囲はどう説得すべき?

「老いに向き合い、楽しむ」心境に導く

Q.高齢ドライバー本人が、運転をやめる決断をするときのきっかけとして多いのは、どのようなことだと思われますか。

川口さん「『住み替え』は車を手放す良いきっかけになっているようです。100戸の分譲マンションに100台分の駐車場が設置されている場合、ファミリーマンションではほぼ全てが埋まっているケースが多いのに対して、高齢者向けの分譲マンション(介護施設とは異なる)では、40台分くらいしか使われていないと聞きます。

高齢者向けの分譲マンションには、さまざまな喪失を受け入れ、乗り越えて、高齢期を新しいステージと捉えて楽しもうとする人たちが住んでいるのだろうと思います。だから気持ちを切り替え、断捨離を実行し、子どもがいた頃の大きな家から、高齢期のライフスタイルに合った住まいへ転居できるのでしょう。その際、車も断捨離の対象にするのだと思います。

運転をやめる決断をするには、このような現役時代からの気持ちの切り替えが大事ではないでしょうか。老いや喪失に抗うのではなく、向き合って乗り越え、新しい楽しみや境地を見つけること。『抗齢者』ではなく『向齢者』になること。これがポイントだと思います」

Q.高齢ドライバーの運転をやめさせる(免許返納を促す)ために、家族はどのように説得するのがよいと思われますか。

川口さん「家族はまず、『高齢期とは喪失の時代である』と認識しなければなりません。この認識がないままに免許返納を勧めるのは、さらなる喪失を迫るのと同じで、なかなか受け入れてはもらえないからです。

免許返納を勧める前に、家族として温かく穏やかな空気を提供し、新しい楽しみを得てもらったり、新しい環境を勧めたりするなど、喪失状態が癒されるような導きが必要だと思います。現役時代の延長ではない、高齢期という新しいステージを楽しもうとする姿勢に切り替わってもらうこと。老いに抗うのではなく『向き合った上で楽しもう』という気持ちになってもらうこと。このようなマインドセットが十分にできれば、免許返納は大きな喪失ではなくなるかもしれません。

断捨離を勧めるのも効果的だと思います。いきなり『運転をやめて』と言うのではなく、身近なところから不要なものを処分していき、余計なものがないシンプルな生活の良さを実感してもらいます。断捨離の効果が分かれば、車の存在にも目が行くはずで、そのときに初めて免許返納の話をすれば、受け入れてもらえる可能性は高まるのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

コメント

1件のコメント

  1. とにもかくにも「(ある)高齢者が対人事故を起こした。」という事実から、脊椎反射的に「(すべての)高齢者は対人事故を起こす。ゆえに運転を禁ずべし。」との結論を導出するほうが、高齢者の対人事故よりも危険なのである。