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日本の百貨店は本当に「オワコン」になったのか

ネット通販などに押され、「オワコン」ともささやかれる百貨店。しかし、本当に「オワコン」なのでしょうか。

日本橋三越本店
日本橋三越本店

 バブル期に最盛期を迎えた百貨店ですが、その後は店舗閉鎖が相次ぎ、現在では「オワコン」との声も聞かれます。確かに、百貨店に行かなくても、ネット通販や量販店で簡単に商品が手に入るほか、店内は休日でも閑散としていることが多く、活気がないように見えます。百貨店は本当に「オワコン」なのでしょうか。百貨店の現状や今後について流通アナリストの渡辺広明さんに聞きました。

「コンシェルジュサービス」がカギに

Q.百貨店は衰退していく一方なのでしょうか。

渡辺さん「日本百貨店協会によると、2018年の全国百貨店売上高は前年比0.8%減の5兆8870億円でした。最盛期だった1991年の9兆7131億円に比べると半分近くに減少しています。一方、2018年の主要コンビニエンスストアの全店売上高は、10兆9646億円(1991年は3兆1873億円)で、百貨店との立場は逆転しています。

ただ、一般の人にはあまり実感がありませんが、2012年12月に始まったアベノミクスで、百貨店の主要顧客である富裕層の人が潤いました。また、2015年に話題となった中国人観光客による『爆買い』に象徴されるインバウンド消費の伸長により、百貨店の業績は回復傾向にあります。店舗の閉鎖が相次いでいますが、各百貨店とも今後は旗艦店、地方では駅前店舗でサービスを強化すると考えています」

Q.百貨店はどのような人が利用するのでしょうか。

渡辺さん「7割は女性客で、シニア世代がメインです。『デパ地下』以外で自分用に商品を購入するのは富裕層の人ですね」

Q.富裕層とはどのような人ですか。

渡辺さん「百貨店が定義している富裕層は、金融資産が1億円以上あり、その百貨店で300万円以上買い物をし、かつ、百貨店のクレジットカードでの年間購入額が1000万円以上の人です」

Q.バブル経済期の百貨店はどのような状態だったのでしょうか。

渡辺さん「社会的影響力がありました。例えば、スーツは百貨店で買うのが当たり前の時代でした。私が学生だった1986年、『DCブランド』ブームを迎え、百貨店ではDCブランドのスーツがよく売れました。当時の価格で1着8万円以上はしましたが、それを着なければディスコに入場できなかったため、私を含めて、若者はこぞってマルイを中心とする百貨店で購入していました。その後、1990年に社会人となりましたが、百貨店は、小売業界の中では就職するのが最も困難でした」

Q.その後、なぜ衰退していったのでしょうか。

渡辺さん「百貨店は読んで字のごとく、あらゆるジャンルの商品を扱っているのが特徴でした。しかし、各分野で優れた小売業が台頭するようになり、顧客離れが進みました。最初の転機となったのは1990年代前半です。青山商事やAOKI、コナカといったSPA(製造小売)型の紳士服メーカーが力を付けてきました。これらの企業は、製造から販売まで自社で一貫して手がけており、百貨店に比べると価格も手頃でした。

1990年代後半からは、ドラッグストアやユニクロ、2000年以降はZOZOに代表されるアパレルのネット通販事業者が躍進するようになり、百貨店の主力商品であるアパレル、化粧品が売れなくなりました。『商品は置いているが、買いたいと思える物がない』という状態になりました」

Q.百貨店はもはや、生き残ることはできないのでしょうか。

渡辺さん「生き残れる可能性は十分あります。日本人が好きな『おもてなし』を最も体現している商売だからです。もともと、富裕層向けのビジネスとして『外商』がありましたが、富裕層の少し手前の位置にいる人にも利用してもらおうと、最近は、日本橋三越本店や西武池袋本店が『コンシェルジュサービス』を始めています。これは、来店客の要望をもとに、商品に精通した各販売員がコンシェルジュとして客の買い物をサポートするものです。日本橋三越本店では、約120人のコンシェルジュを配置しています」

Q.コンシェルジュサービスはどのように進めるのでしょうか。

渡辺さん「まず、客が店舗の相談窓口で要望を伝えます。すると窓口から、それぞれのカテゴリーに精通したプロの各販売員に客の要望が伝えられ、該当する販売員が客をもてなし、買い物をサポートします。なお、客の要望はデータで可視化され、各販売員に共有されます。また、客のデータは蓄積されていくため、来店頻度が多くなるほど、の好みがより正確に把握できるようになります」

Q.コンシェルジュサービスの利点は。

渡辺さん「各分野のプロに商品を選んでもらえることです。ブランドに関係なく顧客に最適な商品を勧めてくれます。ファッションに詳しい人でも、プロの視点でアドバイスを受けることで、新たな発見がある場合もあります。まさに、スタイリストに依頼するような感覚です。百貨店でなければできないサービスだと思います。最先端の『おもてなし』サービスとして大きな可能性を感じます」

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渡辺広明(わたなべ・ひろあき)

流通アナリスト、マーケティングアナリスト、コンビニジャーナリスト

1967年4月24日生まれ。浜松市出身。東洋大学法学部経営法学科卒業後、ローソン入社。22年勤務し、店長、スーパーバイザーを経てコンビニバイヤーを16年経験、約700品の商品開発を行う。同社退社後、pdc、TBCグループを経て、2019年3月、やらまいかマーケティング(https://www.yaramaikahw.com/)を設立。同時期に芸能事務所オスカープロモーションに移籍し、オフラインサロン「流通未来研究所」を開設。テレビ、ラジオなどで幅広く活動する。著書に「コンビニの傘はなぜ大きくなったのか」(グーテンブック)「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)

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